「通常の3倍」問題


いわゆるガノタのお遊び。
科学的リアリティは低いが、だからこそ三倍論争は面白い(砂場の遊具として)。

2013/8/3更新

Gunder Paranoia シャア専用ザクのピンク色の真相


2013/5/26 (5/29訂正)(8/3改稿)
■ガンダムの公式史実

 考えるにあたり、まず大前提となる史実をまとめてみます。

第二話より
「このスピードでせまれるザクなんてありはしません」「一機のザクは通常の三倍のスピードで接近します!」

劇場版より
「このスピードでせまれるザクなんてありはしませんよ」「通常の三倍のスピードで接近します!」

富野小説1巻より (ソノラマ版p59)(角川版p77)
「質量から割り出すとザクです。しかし、こんなスピードで接近するザクなんてあるんですか?」

 小説版では「三倍」は出てきません。よってツッコミむ余地がありませんが、だからこそ面白みがありません。なお、質量をどうやって算出しているのかは不明です(たぶん宇宙の神秘)。

富野小説1巻より
『彼は、一二〇パーセント、ザクの性能をひき出すパイロットである。それ故、赤い彗星なのだ。もちろん、チューンナップによって性能を拡大してはいるが、それよりも最大戦速による技法を身につけ、人よりも敵に接触する事を恐れぬ戦法が、彼をして赤い彗星たらしめているのだ。』(ソノラマ版p62)

『しかし、シャアは一二〇パーセント、ザクの性能をひき出しているのである。チューンナップはしていようが、最大戦速のまま敵に接触する事を恐れぬ戦法が、彼をして、赤い彗星たらしめているのである。』(角川版p80)

 映像ではないため「公式」ではありませんが、「準公式」ではあります(なるほどよくわからん)。

機動戦士ガンダム 第08MS小隊 映像特典『宇宙世紀余話』パイロット編1 シャア・アズナブル
『その攻撃は、シャアの五艘飛びと呼ばれ、その光景は、尾を引く彗星の如きであり(〜中略〜)隊長機はノーマルと比べて20パーセント増しの出力となっていると言うが、アズナブル中尉のザクは通常の三倍のスピードを出したと言う。なぜそれが可能だったのか。よく見てみよう。何と、噴射と同時に、船の胴体を蹴っている。こうして、燃料消費を効率良くし、かつ、機動性も上げていたのだ。』

 されど、ガンダムとの初戦では船を蹴っていないのもまた事実。同じ映像(=公式)ではあっても無論、本編の方がはるかに優先されるはずです。


■諸説

ここが変だよジオン軍−−モビルスーツの周辺(前)(2004)
 何と加速度は9倍も必要。林譲治氏による有名な考察です。(FFでは文字化けしたのですが、他のブラウザで閲覧できました)

『シャアのザクは通常のザクの三倍のスピードで移動する』を検証する−前編− - 呟く男 - (2005)
『シャアのザクは通常のザクの三倍のスピードで移動する』を検証する−後編− - 呟く男 -(2005)

ジオンの残業 3倍速(2009)
 ジオンの残業 速度と距離と加速度と
 ジオンの残業 速度と距離と加速度と…再び
 考察いろいろ。ん、デブリ説も出てるナ…。

考察21 シャア・アズナブルは通常の3倍の夢を見たか

 では、現在はどう考えられているのかをちょっくら見てみます。
シャア専用ザクの速度は通常のザクの3倍出せるという設定らしいのだが、相対速度を使って説明するとどうなるのか - Togetter
シャア専用ザクの性能は実は通常のザクの3割増しなだけですが、条件次第で通常の3倍の速度が出せる - Togetter
【シャア専用】#やさしい物理入門 個人まとめ【3倍】 - Togetter
 ネタ(数字のマジック)から始まり、「デブリが多い説」へと落着。なお「元気先生…って事は小説家か漫画家?」と思って調べたらズッコケた…どう見ても日本最強レベルのイケメンガノタです。


既存の説にツッコミ

「条件次第で通常の三倍は出せる説」(数字のマジック)
 呑み話用のネタ(コミュニケーション)としては有用かもしれませんが、本稿で扱う類の物ではありません。

「実は三倍ではない説」
 実は1.3倍だった、3倍の加速だった、連邦軍の情報が間違っていた、オスカーとパオロが不勉強だった、etc...は、面白みに欠けます。

「シャアザクを見えないブースターで牽引していた説」
 上と同様に、面白くありません(2013/8/3)。

「敵艦と接触後に反転するために速度をセーブしている説」(シャアはその必要が無い)
 多く見かけるのですが、「連邦軍の情報が誤っていた説」の種にすぎません。この説の問題点は「このスピードでせまれるザクなんてありはしませんよ」というセリフの存在です。いくら組織が硬直化している連邦軍といえど、開戦後9ヶ月の時点で量産型ザクの最大戦速の数値を得ていないというのは流石に考えられません(ザクを何機も鹵獲している後付け設定もアリ)。よってこの場合の艦長のセリフは「通常の三倍で接近だと? という事は速度をセーブせずに一撃離脱戦をしかけてくるというのか…いや、それともまさか…オペレーター、そのザクの色は?」「映像を拡大…赤ですね」「何だと…いかん、シャアだ…逃げろ!!」となるはずです。

(2013/8/3改稿)
「ムサイの後方に射出されてから時間をかけて加速していたのを、WB側はムサイの位置から加速したのだと勘違いしていた説」
 ムサイの位置は特定されているため、敵艦との距離における「最大接近速度」こそ存在しますが、ザクがこの速度を上回る事は容易です。ムサイの後方(ホワイトベースからは死角にあたり捉えられない)に射出後にしばらく慣性移動で進んだ後、時間をかけて加速するか、あるいは急激に(ワイヤーで巻き戻す、隕石をキックする…)加速すれば良いだけです。しかし、この場合のセリフは(オスカー)1機のザクは想定の三倍のスピードで接近します」「(パオロ)そうか…ムサイの後方から加速したのか、もしくは新たにやってきた別のムサイのザクの可能性も…」と続くはずです。


■各説を考えてみる

「性能が高かった」
 なぜ3倍がシャアだけなのか?という大きな問題があります。また、この場合の設定は「S型は推力不明で、ただ1機が存在」だと都合が良いのですが、実際の後付け設定は「S型の性能は推力3割増しで生産数は約100機程(2013/5/29修正)」のため厳しい物があります。また推力以外の要素(実は戦闘持続時間が少ない、装甲が薄い等)についても、それを推察できる描写は何ら見受けられません。また性能だけが理由なら、ライデンのザクは「通常の4倍」くらいはゆうに出せているはずですし…。

「度胸があった」
 これだけでは不十分で、「なぜ他のパイロットがタマナシなのか度胸が無いのか」が不明瞭です(「スロットルレバーを引くだけの簡単なお仕事です」というだけなら、注射一本で誰でも手に入れられる)。よって、度胸説は以下の説と組み合わせる必要があります。

「技量があった」
 最もポピュラーな考え方。ただし1.3倍程度ならこれだけで何ら問題ありませんが、3倍はいくら何でも突出しすぎです。この場合、更に「他のパイロットがダメすぎる(遅すぎる)」という理由が無いと厳しいはずです。一般のパイロットがMSのスピードを上げられない理由として、最もありえそうな物は「死の恐怖」でしょう。では、その危険性が何であるのかを以下に考えてみます。

「推進剤をムダなく使う技量」
 燃料切れが危険であるのは、ザクが停止する事により敵に撃破される事のみです。単に置いてきぼりをくらう程度ならさほど問題はありません。コックピットの生命維持装置と無線と救難ランプさえ無事なら、緊急用太陽電池を展開して気長に待っていればそのうち助けがきます…まあ捕虜になる確率も高そうですが。いずれにせよ、ザクの「墜落」の危険性は、地球もしくは月面に近い場所で無い限りはありませんから、宙域によっては航空機よりもむしろ安全な乗り物だと言えます。

「爆発しやすいエンジンを安定させる技量」
 エンジンの扱いを誤ると「ヅダーン!」と爆発してしまうので、まさにチキンレースかロシアンルーレットな毎日。ザクの性能はメンテナンスに左右されるので、調子のいい時と悪い時の落差が激しそうです。ただ、技量よりも運が重要なファクターだというのは「設定としての面白み」がありません。

「デブリを避ける技量」
 「シャアは勇気があって天才でニュータイプだから」の三つの特性が適用できるため、説得力は既存の全ての説の中で最も高いと言えます。ただし、私個人としては(ガンパラ内においては)これを考慮していません。ザクはガンダムのバルカン砲の至近直撃をシールドで弾く事が可能なのに、デブリごときを恐れるというのは「物語の設定」として自然ではないためです。もう一つは、サイド7の宙域がデブリだらけだったとは考えづらい物があります。コロニーの周辺にロープや電線や灯台の様な人工物がひしめいている可能性は高いものの、民間船の航行に支障が出る程とは思えないので「安全コース」を算出するのは容易なはずです。とはいえ、暗礁宙域の様な場所ならば何ら問題は無いでしょう。画面上ではサイド5宙域(テキサスゾーン)に隕石(正確にはアステロイド)が多く、Ζの後半からΖΖに至っては毎回「それはありえないだろ」と突っ込みたくなるほどの量の隕石でひしめいています。また、ガンダム世界にはデブリという概念が長く存在しませんでしたが(シャトルガンダム除外)、最近の漫画には出てくるので、そのうち一般化して「戦場によっては、敵の弾を受けて堕ちるザクよりもデブリで破壊される数の方が多かった」とかいう史実も加わる可能性は高いでしょう。まあいずれにせよ、「物理法則を否定しないというルール上」において、これに勝る説を私の頭では提示できません。

オマケ「喧伝説」(実は3倍パイロットは他にもいた)
 いかに技量説であっても、現実(ニュータイプの存在しないこの世界)的に三倍という差はリアリティがありません。リアルっぽく考えれば、「ウウッ…3倍ならシャアだ。だが、2.9倍ならライデンかもしれんし、2.8倍ならマツナガも出せるな…いずれにしろ、に、逃げろ!」となるはずです。とはいえこの点については、シャアと同じ3倍パイロットが他にいたとしても「ザビ家のイメージ戦略により、シャアが大々的にプッシュされた」で容易に解決します。MSV設定で「ライデンがシャアと混同されたという史実」が存在し、そもそも一パイロットごときの名前が知れ渡っている事はすなわち、ジオン側が意図して情報が流している事を意味します。

スペック シャアのザクが3倍なのは何故か? ←うーん、詰めが足りないなあ2004年の俺よ。


■妄想俺説(ガンパラ設定)

 この問題が解決しない理由は、「ガンダム世界の物理法則が異なる」という事実がなぜか見過ごされて「現実の物理法則」の範疇で考えられてしまうためです。「通常の三倍は正しい、科学の方がマチガイ」と言ってしまえば、議論はそこで終わりです(逆に「科学的には三倍だろうが三千倍だろうが出せるからガンダムはウソだ」でも即ジ・エンド)。神学論争では「聖書は正しい」もしくは「科学こそ絶対」と言い切ってしまえば論議はそこで終了です。よって議論を続けるためには必ず、「聖典も科学も否定しないという暗黙のルール」に則って行わなくなくてはなりません。

 ですが私はガノタで唯一、この永久に続く砂場遊びの輪廻からの解脱を目的としているため、この暗黙のルールを否定します。という訳で前置きを終えて本題に入りますと、物理法則が異なる事の証拠は、二つあります。一つは、「このスピードで迫れるザクなんて」というセリフから、ザクには「最高速度」が存在する事がわかります。そしてもう一つは、「宇宙空間でMSは自然に止まる」事です。では、一体いつ法則が変わった(正確には上書きされた)のか…それは無論、ミノフスキー粒子が散布された時に他なりません。

 ガンダム宇宙は物理法則が異なる。宇宙には「最高速度」が存在(第二話のセリフより推察)し、MSや宇宙船は「自然に止まる」(画面より推察)。以上より、ガンダム宇宙には「気圧」の様な物が存在すると考えられる。

「ミノスフキー気圧/ミノフスキーダイランタシー速度減少現象」 
 MSが自然に止まる理由で、宇宙空間に「最高速度」が存在しうるのはこれによる。ちなみに画面上において、朽ちた艦船や全てのデブリが不思議と静止しているのも、これらの作用による物である。なお、MSとデブリの遭遇は頻繁に起こるものの、MSは「ミノフスキーバリアー」を発生できるため被害が生じる事は滅多にない。詳細→妄想・ミノフスキー粒子の超真相-1

「ミノスフキーホール」
 シャアが三倍である主な理由で、「ミノフスキーダイラタンシー空間固化推進」のために宇宙空間を足で蹴る回数を増やすだけでなく、ミノスフキー空間に点在する「抜け穴」を利用する(似たような物としては、エウレカセブンにおけるトラパーの波が近い)。センサーの類で見つからないため穴の発見には「勘の良さ」が必要であり、くぐるためには天才的な操縦技量も無くてはならない。詳細→妄想・ミノフスキー粒子の超真相-4


 ・・・とか色々言ってみたものの、小説版の様に3倍のセリフ自体を削る方が良いのかもしれません(別にセリフとしてある必要は無く、有名な「青い巨星」も「白い悪魔」も、劇中及び富野発言にもただの一言もない後付けであるにすぎない)。


■参考史料
名称 宇宙速度 史料
メッサーラ マッハ80(戦闘速度) ケイブンシャ Ζガンダム大百科
ウェイブ・ライダー マッハ40(戦闘速度)
ガブスレイ マッハ25(戦闘速度)
アーガマ マッハ20(巡航速度)
ホワイトベース マッハ12(大気圏外) 講談社 ポケットカード8
ビグロ マッハ10
ジオング マッハ9
ブラウ・ブロ マッハ8
エルメス マッハ7.2
ムサイ マッハ7.14
ザクレロ マッハ5.2
ビグ・ザム マッハ7
ボール マッハ4
ノーマルスーツを着た兵士 マッハ0.15

※マッハとあるが、地上の音速なのか「宇宙音速」であるのかは不明。



2013/8/3
■ヨタ話

雑記13-05 ■赤い彗星の最期

■三倍のヲ作法その1

「このスピードでせまれるザクなんてありはしませんよ」のセリフ、及び艦長が「シャアだ」と断言した事は無視する。
 これを考慮した場合、大半の説がポシャってしまいます。現時点で最強のデブリ説(双葉社『ガンダムの常識Special 赤い彗星シャア・アズナブル篇』に確認)ですらもセリフを変えなければ不自然であり、「(オスカー)通常の3倍のスピードで接近しますが、このスピードならばすぐにデブリで自滅するはずです」「(パオロ)いやまて、そのザクの色はわかるか?」…という具合になるはずです。


■三倍のヲ作法その2

科学を全肯定する。
 「このスピードで迫れるザクが無い」を素直に受け取ると、ザクにはスピードの限界が存在する事を意味します。しかし無論、現実の宇宙空間にそんな物はありませんから(光速は無論除外)、つまりオカルトですが、逆にオカルトだからこそ「永遠の議論のネタ」たりうるのです。幸い、「物理法則が異なる(魔法が使われる)」とのコジツケは不思議と私の知る限り聞き及びませんし、ガノタが指摘する事も滅多にありません(2ちゃんで「MSって自然に止まるよな、慣性の法則無視して」等のツッコミをたまに見かける程度)。

 「通常の三倍ネタ」が優れているのは、公式設定では解決されていない物であるため、すなわち「科学」を基準にして考える(突っ込む)事ができます。ガンダム設定のお約束である非合理的なコジツケ(すなわち「ミノフスキー云々で3倍」)が存在しないため、よって「9倍の加速のためには膨大な推進剤が必要であり、計算するとシャアザクの体型は何と、相撲取り以上にブクブクになってしまった!!」…とやってもお咎めを受ける事はありません。
 私が既存説を「呑み話用のネタ」と揶揄した所で、そもそもの通常の三倍問題自体が、そういう類の物以上でも以下でもありません。オトナの呑みネタ、すなわち一般的読み物(エンターテインメント)を重視したスタンスをとるならば、意図的な「フィルム、設定の無視」は致し方ないと言えます。ですが082は子供なので(モットーは「心はいつも中二病」)、こうして突っ込んでしまう訳ですが…。


■反考察追加

「シャアのみが最高速度を許可されていた」
 チート、美形補正、ジオン軍はバカの集団…の3つのうちどれか。

「とにかく3倍のスピードである事実は揺るがない」
 訳…科学で完膚なきまでに否定されようが、トミノの意思の前には関係ない。そもそもロボットアニメはSFじゃないんだし。

「後に3倍に改竄された」
 ムービービジョン「機動戦士ガンダム」において、史実では1.5倍であるがプロデューサーの意向で3倍に脚色がなされた。


■マッハ設定について

 宇宙空間には「絶対的な速度」は無いので、「マッハ設定」はナンセンスだと当時より思っていました(事実、児童向け媒体で多少見られたものの、すぐに消えて行きました)。ですが、だいぶ後になってから「速度は存在するのではないか?物理法則が変更(上書き)されていると仮定しないと説明が付かない事が多すぎる」と思う様になりました。※以上の要約…「墓掘れワンワン」。



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