ターンエー雑記-3



2016/9/18(9/19微改稿)
■月光蛾は境界線上で踊る

  「スペースノイドとアースノイド」
  「ニュータイプとオールドタイプ」
 ガンダムでは「分け隔たれた」物が対立して、争い(ドラマ)が生じる…同じ人間どうしであるというのに。

 しかし二項対立は無論、ガンダムの専売特許ではない。
  「右と左(西と東、資本主義と共産主義)」
  「北と南(先進国と発展途上国)」
  「実写とアニメと(大人文化と子供文化)」
  「パンピーとオタクと(体育会系と文化系)」
  「美女とブス(イケメンとキモメン)」
  「貴族と賤民、勝ち組と負け組、正社員とバイト、高学歴と低学歴、コミュと非コミュ…」
 しかし、そんな区別は本当に必用な物なのだろうか。こんな区別があるから、差別が生じ、人の世に争いが絶えないのではないのか。
 オタクは比較的、リアルワールドでの差別をしない人種であるとは思うのだが、その内側においては彼らの神でさえ二つに分割されている…「黒富野に白富野」と。

 ターンエーにおいては、主人公が以下の要素を横断しているのが特徴と言える。
  「ムーンレィスとミリシャ」
  「男と女」
  「白(い人形)と黒(い肌)」
 白き人形に乗りし黒き肌の月の男の娘は、イソップ物語のコウモリの様に…いや狂言廻し(トリックスター)として境界線上で踊る。その姿はまさに、これら境界線の存在自体を引っ掻き回し、懐疑を突き付けているのに他ならない。
 外見だけをとっても、主人公の当初の身分が使用人である事が、奴隷を暗示…つまり「南北戦争」をイメージさせる(舞台はそもそも19世紀風のアメリカ大陸である)。次に、「ムーンレィス=イスラエル」である事は当時より指摘されているが、私には「黒船」でもある様にも感じられる。黒き船…そう、今考え直してみると、「黒」の文字こそが本作の本質を示す語であるとも言えるだろう。
 また、本作品における重要な要素の一つが「月光蝶」という言葉自体にも隠されている。

 「月光蝶は、蛾だったんだよ!」

 15年程前、私の唯一人の人イワンは、モニターの向こう側で強く断言した(その口調が妙に嬉しそうなのは、彼がモノノケ押しかけ女房を好む変態だからだろう…他にロリババアも好きらしいが)。
 私は「そういえば確か、そんな感じの蛾がいた様な気もするなあ…」と存在を知って間もないグーグルで調べた所、おぼろげな記憶の中にあった美しい蛾の姿が大量にヒットした。月光蝶の名も調べると、学術的にはたったの一件、魚の名前として中国語サイトがヒットしただけだった。私の知りたかった「文学方面において使れた事のある物なのか」については全くわからず、これは今も同様である。
 「確かに面白い説だが、月光蝶が蛾のオオミズアオである証拠がどうにも見つからないな」と私は突っ込んだが、彼は勝ち誇った様にこう答えた。
 「そんな物はいらない。オオミズアオ…海外でムーン・モスとも呼ばれる蛾の英名それ自体が証拠だ。"アクティアス・アルテミス・エイリアーナ"…この意味は、水・ディアナ・縁故無き人、宇宙人女性。異論はあるかい?」
 次に彼は、こうも言った。「蝶と蛾は生物学的には同じ鱗翅目の仲間なんだ。人間が勝手に区別しているだけにすぎない」。
 私は「いや確か、繭を作って夜に飛ぶのが蛾で、そうでないのが蝶では?」と返したが、「繭を作る蝶もわずかにいるし、昼に活動する蛾もいる」との事。
 更に「では、どうして月光蛾ではないのか」とも問うたが、後は自分で考えるといい、と言い残して彼は去った。

 蝶だとばかり信じていたら、実は蛾だった…とはどういう事か。
 明るくまっとうな女性だと思っていたら、実は「夜の女」だった。若い娘だと思っていたら、正体は妖怪の様なババアだった…だがこれは、何も「女は嘘つきだ」という意味ではなかろう。
 ガンダム最高の名曲『月の繭』には「揚羽の蝶になる」とあるが、蛾が蝶になる事は無論、不可能である。
 だが、決してなれないからこそ、そこには夢が、ロマンが生じる。ジョン・レノンのイマジンよろしく、実現のしようもない途方も無い夢だからこそ、人は歌うのだ。

 ところで、『月の繭』とはどういう意味か? カタルニャー語にも似た翻訳不能の言語で歌われる『Moon』のタイトルから考えて、普通に「月=繭」なのだろうか?
 これについては、歌詞の「青に染まる恋し繭玉」がヒントであろう。小さな繭が青く染まる(空の色を映して?)というのも変である。

 ガンダム界(富野歌詞研究界)における解読によれば、繭とは地球の事である。
TOMINOSUKI / 富野愛好病 井荻麟作詞論 第52回「月の繭」
繭というものが羽化する前の蛹(未成熟な生命)を守る存在だとすると、繭が地球のメタファーという意味になる。(中略)つまり、「月の繭」はディアナを歌うものであると同時に、地球そのものを称える歌でもある。 

 この鋭い解読には、私も同意する所である。だがここで、『月の繭』の意味が疑問となる。これは「地球の繭」という真実を隠蔽するための嘘なのであろうか。いや、おそらくここで、富野の視点は地球から月へと急激に切り替わっているはずだ。すなわち「月から見た地球、月の所有する地球」という意味での「月の繭(=地球)」という意味なのであろう(無論同時に、”夜”、”小さい”、といった女性的要素も込められている)。これに加えて、視点が飛んでいると考えるもう一つの論拠は、「恋し」である。「恋しい地球」という人はいないし、「恋しや古女房」という言葉もあまり聞かない。恋とは、遠く手の届かぬ者に対する想いである…つまり「恋し繭玉」とは足元にある大地ではなく、空の彼方に浮かぶ月の様な物に対して発せられる言葉である。

 『永遠にアムロ』において、富野の視点は地球ではなく、「宇宙の彼方に輝く星が〜故郷だ」と、遠いスペースコロニー(いや銀河の彼方か?)へと飛翔している。そして、「お前の捨てた故郷」を「振り向くな」…ここから、富野は自らの故郷(=小田原)を捨てて背を向けているのだとの解釈を導く事はたやすい。
 そもそも繭とは、壊れて捨てられてしまう物にすぎない。だが、これを「人類は地球から離れてスペースノイドとなれ」という意味だと受け取るのは早計である。ごく普通に考えれば「繭に眠る若人よ、故郷を離れて羽ばたけ! 揺り籠たる日本に籠らず世界を目指せ!」という叫びであろう。とはいえ、「人は土を離れては生きられない」との土着的(地元主義のヤンキー的)な価値観の宮崎作品に対して、富野は終始その真逆である「故郷無き流浪の難民」を描き続けてきた。シァアが、故郷の土地にこだわる老人を射殺した(11話)のは、故郷である小田原を憎悪する事と無関係ではないだろう。だが、愛とは執着でもある。故郷(=土地の所有)がなければ国境もなく、国境がなければ戦争も起こらない…富野は流浪を描く事で、それを訴えたかったのではないだろうか?(そしてその彼が今、うって変わって地方をオタク観光で再生しようとしているのは一体いかなる因果…いや変化であるのか実に興味深いと言えよう)。

 また、「繭たる蛹たちは七たび身をかえる」とはいかなる意味であるのか。さて、繭と言えばギンガナムたが、彼の「二千年間軍事演習を続けてきた」とは、「二十年間ガンプラ遊びだけを続けてきた」の隠喩である事は疑いようがない。そして、ガンプラオタが身を変える事などはありえないない。「ガンプラ遊びを飽きもせず繰り返し、メカと設定を偏愛し禿を憎む幼稚な彼らが、ガンダムという閉じた繭の中から抜け出す事は永遠に無いのだ」から…。よって身を変える事ができるのは、それ以外のガンダムファン、おそらく(転びやすい)女性ファンを意味していると考えられる。なお、「揺らぐ夜に生まれた」とは、本作がオタク文化という黒き出自(黒歴史)より生まれた事を意味する物と考えられる。

 そして更に、この繭とは日本をも意味しているのではないだろうか。いまだに国家として自立できていない、超大国の属国という繭に閉じ込められた弱き日本を意味するのならば、七たび身をかえるとは、すなわち日本の政権が七度交代するという意味なのかもしれない。「大日本帝国→進駐軍→自民党→連立政権→自民党→民主党→自民党(イマココ)→?」 という事は、自民党政権はもう一度倒れた後、もはや復活する事はない(もしくは日本自体が終わる)という大いなる予言なのだろうか…

 …とトンデ妄想はさておき、再び虫の話へと戻る。「七たび身をかえる」とは幼虫が何度も脱皮を行うのを服を着替えているイメージに喩えたのかもしれないが、その程度のマイナーチェンジではなく、もっと本質的な物ではないだろうか。ならば、「卵→イモムシ→繭(蛹)→蛾」で4回。ただし、蛹は繭の内部でドロドロのスープ状に化す。これを加えて厳密に数えると、「卵→イモムシ→繭付きイモムシ→ドロドロ→蛹→蛾→?」。という事は、蛾となった後にもう一度変態が起こり「揚羽の蝶」になる事を意味しているのかもしれない。

 よって以上の結論は、「蛾は蝶になる」…いや、やはり科学的になるはずがない。しかしそれを言うなら、 富野の詞の世間で一番有名なフレーズは(悲しい事に)「燃え上がれガンダム」であるが、ガンダムはそんな体育会系のお話では断じてない。次に有名なのが「銀河に向かって翔べよガンダム」であろうが、無論そんな事に意味は…いや違う、『月の繭』の歌詞にはしっかり「銀河をわたる蝶よ」とあるではないか。という事はやはり、人類よ銀河に飛べよ植民せよというのが、ファーストガンダム及びターンエーのテーマであると考えて間違いないだろう。
 かつてツィオルコフスキーが言ったように、我々人類はいつまでも地球の揺り籠にいるべきではないのである。
 よって、スペースコロニー計画はトミノ的に正しいのだ…アレ? 待てよ、確かターンエーやキンゲはスペースコロニーの否定がコンセプトだった様な…し、しまったっ!!(ガラガラガラ…と崩れる)いや、そんな事はさしたる問題では無かろう。

 では、論考をまとめる事とする。『月の繭』における主要な文字を列挙すると、「月、繭、夜、蝶(本当は蛾)」があげられる。これに加えて、本作における重要語である「黒」…見事なまでに、全てがネガティブとされる語である。だが、真の最重要語はこの中には無い。

 黒、夜、月、繭、蛾…

 これらの単語から連想される(裏に存在する)物こそが、ターンエーガンダムという作品の根幹(最重要語)である。それが一体何なのは、あえて言うまでもないだろう…ツノの付いた赤いМSを駆ったコレン・ナンダーの最後の台詞こそが、ターンエーの本質である。


 ※関連月光蝶の超真実



2013/6/29
厨な一般的な質問と、良い回答
ガンダム世界における「黒歴史」って完全にヤッチャッタ設定だと思うんですけど。 ... - Yahoo!知恵袋
あんまり設定設定うるさいやつがいるから(てかバンダイ、サンライズ的にも)うるせえ黙れっていってるんです。
黒歴史って言葉で黙らせたそんだけ。

 わはは。


2011/9/11
■ヒゲリンク

http://aniki69.dousetsu.com/simpleVC_20110206173439.html 
 「解説系」の所に・・・。このaaaライブドア鯖も11月いっぱいで消失するため、おそらくこれが最後のヒゲ被リンクとなると思います。



2011/5/21
■ターンエーと核
カオスの縁 ――無節操日記 - ∀ガンダムの主兵装は核爆弾?
 ところが、ゲーム中においては、そのロランと∀ガンダムが、敵に対して――人間に向けて平気で核爆弾をポイポイ投げつけているわけです。
(中略)
 現在の若い世代が、核兵器の怖さを肌で感じられないこと。それゆえに、ただ単に強い武器として、将来核兵器を自らの手で放ってしまう可能性があること。これは、さすが富野監督らしい洞察だと思います。
 けど、それに対して「核兵器の感覚」を作中で伝える事には、実は失敗し続けているんですよね。
 今日も、全国のゲームセンターで、∀ガンダムは相手に向けて核爆弾を投げつけています。

 ではどうしたら良いんでしょうか?

 本当に、どうしたら良いんでしょうか・・・(←自分で考えろ) いやどうにもできはしない、自分に唯一できるのはただ祈る事のみ(9/11追加)

雑記11-04-13 【ガンダム】レベルが 7に あがった【核】



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