P57〜P64
新しき"創造"を求めて・・・
「機甲天使ガブリエル」メインスタッフ座談会
河森 正治 スタジオぬえ 原作とコンセプトデザインを担当
宮武 一貴 スタジオぬえ スタイリングデザインを担当
森田 繁 スタジオぬえ プロダクション・マネージメントを担当
大野木 寛 小説の執筆を担当
片岡 義郎 企画担当代理店(株)旭通信社の担当者
谷脇 龍 ノーマン・クリエイティブ 立体造形を担当
●今後何年かはひっぱってゆけるくらいのデザインを提示したい
略
●『ガブリエル』は当初からアニメとしてではなく企画されていた
略
P59〜P60
●停滞する現在の状況を乗り越える、一つ先の世代のためのリサーチ
OUT 片岡さんにお聞きしたいんですけど、通常の代理店の役割を考えますと、この企画のようにアニメ化や映像化の話が具体的にない作品ということになると、代理店としての存在理由はどういうところにあるのかな? って単純に思うんですけど…。
片岡 そういう意味で言えば、代理店としての存在価値というのは今までのところでは、あまりないんですよ。僕のした仕事は、以前から興味のあったあの河森くんが次にどういう作品を考えているのだろうか? 何もないようだったら是非やってもらいたいというところから出発していますね。たしかに今のところ会社に対しての貢献という点では、まだ何もないですからね…。
森田 将来を考えての投資というところで(笑)。
河森 今回の企画そのものがある種の実験性があるからいいかげんにやるというのではないんですが、メーカー側であるバンダイさんの、企画時のセクションが開発本部であるということからもわかるように、この企画はある種の開発のためのプロジェクトなわけです。つまり、オモチャにしてもアニメにしてもある程度行きつく所まできてしまって、現状のままでは縮小再生産にしかならないだろう。これから先、5年後、10年後を想定した時に、このままで行けばいつかは自滅してしまうだろう。だったら自滅しないためには何があるんだろうか、ということをリサーチする作業の一つとしても、この企画を考えているわけなんです。そして、その作業の成果が一つの作品となるわけですし、また、その作業の過程で出た様々な問題点やら発見やらがおそらくその次のものを生み出す時の、何かのキッカケをつかむことにはなるだろう。そんな意図も含まれています。
ですから、今回は非常に特殊なケースと言えば特殊なケースで、ある意味ではハードとソフトの両面において一世代先のためのリサーチという性格があるわけです。で、これは極端な意見なんですが、今回の企画が必ずしも画期的ということではないんです。要するに今までのものを総合した一つの集大成であるという確信はあるのですが、今回のデザインの複雑さというのは、次にくるシンプルなものへのステップというか模索でもあるわけです。というのは、いくら必然性があるとはいえ、複雑なデザインというものが持っているキャラクター性のインパクトでは、どうあっても単純なものには勝てない。ただ、だからといって普の単純なものに戻ってしまうのではつまらない訳です。それであれば、今回のこの作業の中からこの一世代を超えたきっとまた新しいシンプルさが見えててくるだろうし、それを探りあてたい。そして、複雑ではあってもこの作品は現在までのものの集大成として、面白いものができるであろう。そういった二つの意味が『ガブリエル』にはあるわけです。
ただしその二つのことは意図ではなく派生して出てくることであって、目標ではないですね。目標はあくまで面白い作品を作ることです。
OUT しつこいようですけどね。それにちょっと乱暴な言い方というか、下司な言い方になるんですが、例えばですよ、この『ガブリエル』のコンセプトを見て、どうしてもアニメ化をしたい、現状のアニメーション技術では困難かもしれないがやりましょうというところが出てきたらどうしますか?
片岡 それはですね、アニメ化ということが少なくともこの作品を発想する際に除外して考えていたわけですから、アニメが映像として世の中に最初に出るということはまずあり得ないですね。もちろん、アニメ化映像化は最終的にしたいという希望はありますが、現段階でそれをやったら、原作なり当初のイメージなりを相当変更したり省略したりということが当然伴ってきてしまうと思うんです。でも、だったらこの企画はやる意味がなくなってしまう。ならばやめた方がいい、そういうことなんです。
河森 それと、アニメを見てる人が小説を読んだっていいじゃないか、という気もするんですよ。だって、なにもアニメにしか面白いものがないというわけではないんですから。アニメはあくまでも目的ではなく、手段ですからね。
OUT それとですね。スタジオぬえの作品としては、これ以前に『マクロス』とか『オーガス』とかの作品があるんですが、このガブリエル』はその延長線上にある作品と考えていいのでしょうか? たしかにアニメーションではないですけど、作品系列としてはどうなんでしょうか?
河森 作品系列としては全く別ものですね。というより、別ものじゃなかったらやりたくないですね。
森田 続編とか同じ系列を作り続けるという発想は僕らには全くないんです。続きを作るなんて面白くもなんともない。だったら、新しいものを作った方がいいと思うんですよ。とにかく創り事としては、今までと全く違ったものを作っているという意識でやっています。
河森 やっぱり新しいものをやらないと興味がわかないし面白くないですよ。
OUT あと『ガブリエル』の企画書を読ませていただきまして、その中でキャラクターのヒーロー性を強調して物語を作るということがずい分と書かれていましたけど、そういう考えの背後には、傾向として今の作品の多くのものが、キャラクターとしてヒーロー性を喪失してきているのではないかという反省みたいなものがあるのでしょうか?
河森 それは間違いなくありますね。状況に流されていく主人公ではなくて、状況を変えてゆく主人公でないと、少なくとも現代の「なんかどうでもいいや」といった風潮は乗りこえられないんじゃないかと思うんですよ。それに、やっぱりキャラクターが行動した方が絵にしても話にしても面白いですしね。
大野木 昔はそういった行動的なキャラクターを、アニメだといわば直情バカといったものに仕立てあげて、話を展開していったと思うんですよね。で、それが結局あまりにパターンになりすぎて、ならば直情バカではない人間像はどういうものかというところから悩める主人公みたいなキャラクターが新しく登場するようになってきたと思うんです。つまり、ただ走りまわるんじゃなくて、どっちに行ったらよいか判断に迷ったり、自分を反省してみたり、悩んだりするといった、言ってみれば普段の僕らと同じレベルの問題意識でもって生きていくキャラが増えてきた。けれども、それは同時にキャラクターからヒーロー性がどんどん失われてゆくことにもつながったと思うんです。
そこで今回の作品はどんなキャラクターを登場させようと考えた時に、そのキャラのヒーロー性を失わずに、それも昔の直情バカに戻るんじゃなくて、新しいキャラクターが作れないものかということでこの主人公のような一言で言って直情天才(笑)、といったキャラクターができたわけです。
森田 悩みというのは解決されなければならない、という感覚が欠如して、ただただ悩み続けるだけになってきちやったでしょ。
河森 直情傾向のキャラクターが増えすぎちゃって、その時に悩める巨人公が出てくるのはたしかに新鮮なんですよね。ただそれが、悩める主人公が一、二回出るのはいいんですけれど、悩まないといけないになってしまうと、なにか無理矢理悩ませるような、悩まなくてもいい時にも悩むような主人公になってしまうと、もうウットウしいわけですよね。悩んだ末にそれを解決してゆくのが面白かったのに、解決できないからしょうがないからズルズル戦っているんじゃ、興味は薄れていってしまいますよ。当然『ガブリエル』の主人公も悩まないわけじゃないんですけども、悩むより先に行動しよう、当たって砕けろ、失敗したっていいじゃないかっていうタイプの、そんな気分の主人公なんですよね。
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