「機甲天使ガブリエル」メインスタッフ座談会(抜粋)


月刊OUT 1986年4月号より



2008/11/16

P57〜P64

新しき"創造"を求めて・・・

「機甲天使ガブリエル」メインスタッフ座談会


河森 正治 スタジオぬえ 原作とコンセプトデザインを担当
宮武 一貴 スタジオぬえ スタイリングデザインを担当
森田 繁 スタジオぬえ プロダクション・マネージメントを担当
大野木 寛 小説の執筆を担当
片岡 義郎 企画担当代理店(株)旭通信社の担当者
谷脇 龍 ノーマン・クリエイティブ 立体造形を担当


●今後何年かはひっぱってゆけるくらいのデザインを提示したい
  略

●『ガブリエル』は当初からアニメとしてではなく企画されていた
  略

P59〜P60
●停滞する現在の状況を乗り越える、一つ先の世代のためのリサーチ

OUT 片岡さんにお聞きしたいんですけど、通常の代理店の役割を考えますと、この企画のようにアニメ化や映像化の話が具体的にない作品ということになると、代理店としての存在理由はどういうところにあるのかな? って単純に思うんですけど…。

片岡 そういう意味で言えば、代理店としての存在価値というのは今までのところでは、あまりないんですよ。僕のした仕事は、以前から興味のあったあの河森くんが次にどういう作品を考えているのだろうか? 何もないようだったら是非やってもらいたいというところから出発していますね。たしかに今のところ会社に対しての貢献という点では、まだ何もないですからね…。

森田 将来を考えての投資というところで(笑)。

河森 今回の企画そのものがある種の実験性があるからいいかげんにやるというのではないんですが、メーカー側であるバンダイさんの、企画時のセクションが開発本部であるということからもわかるように、この企画はある種の開発のためのプロジェクトなわけです。つまり、オモチャにしてもアニメにしてもある程度行きつく所まできてしまって、現状のままでは縮小再生産にしかならないだろう。これから先、5年後、10年後を想定した時に、このままで行けばいつかは自滅してしまうだろう。だったら自滅しないためには何があるんだろうか、ということをリサーチする作業の一つとしても、この企画を考えているわけなんです。そして、その作業の成果が一つの作品となるわけですし、また、その作業の過程で出た様々な問題点やら発見やらがおそらくその次のものを生み出す時の、何かのキッカケをつかむことにはなるだろう。そんな意図も含まれています。
 ですから、今回は非常に特殊なケースと言えば特殊なケースで、ある意味ではハードとソフトの両面において一世代先のためのリサーチという性格があるわけです。で、これは極端な意見なんですが、今回の企画が必ずしも画期的ということではないんです。要するに今までのものを総合した一つの集大成であるという確信はあるのですが、今回のデザインの複雑さというのは、次にくるシンプルなものへのステップというか模索でもあるわけです。というのは、いくら必然性があるとはいえ、複雑なデザインというものが持っているキャラクター性のインパクトでは、どうあっても単純なものには勝てない。ただ、だからといって普の単純なものに戻ってしまうのではつまらない訳です。それであれば、今回のこの作業の中からこの一世代を超えたきっとまた新しいシンプルさが見えててくるだろうし、それを探りあてたい。そして、複雑ではあってもこの作品は現在までのものの集大成として、面白いものができるであろう。そういった二つの意味が『ガブリエル』にはあるわけです。
 ただしその二つのことは意図ではなく派生して出てくることであって、目標ではないですね。目標はあくまで面白い作品を作ることです。

OUT しつこいようですけどね。それにちょっと乱暴な言い方というか、下司な言い方になるんですが、例えばですよ、この『ガブリエル』のコンセプトを見て、どうしてもアニメ化をしたい、現状のアニメーション技術では困難かもしれないがやりましょうというところが出てきたらどうしますか?

片岡 それはですね、アニメ化ということが少なくともこの作品を発想する際に除外して考えていたわけですから、アニメが映像として世の中に最初に出るということはまずあり得ないですね。もちろん、アニメ化映像化は最終的にしたいという希望はありますが、現段階でそれをやったら、原作なり当初のイメージなりを相当変更したり省略したりということが当然伴ってきてしまうと思うんです。でも、だったらこの企画はやる意味がなくなってしまう。ならばやめた方がいい、そういうことなんです。
 
河森 それと、アニメを見てる人が小説を読んだっていいじゃないか、という気もするんですよ。だって、なにもアニメにしか面白いものがないというわけではないんですから。アニメはあくまでも目的ではなく、手段ですからね。

OUT それとですね。スタジオぬえの作品としては、これ以前に『マクロス』とか『オーガス』とかの作品があるんですが、このガブリエル』はその延長線上にある作品と考えていいのでしょうか? たしかにアニメーションではないですけど、作品系列としてはどうなんでしょうか?

河森 作品系列としては全く別ものですね。というより、別ものじゃなかったらやりたくないですね。

森田 続編とか同じ系列を作り続けるという発想は僕らには全くないんです。続きを作るなんて面白くもなんともない。だったら、新しいものを作った方がいいと思うんですよ。とにかく創り事としては、今までと全く違ったものを作っているという意識でやっています。

河森 やっぱり新しいものをやらないと興味がわかないし面白くないですよ。

OUT あと『ガブリエル』の企画書を読ませていただきまして、その中でキャラクターのヒーロー性を強調して物語を作るということがずい分と書かれていましたけど、そういう考えの背後には、傾向として今の作品の多くのものが、キャラクターとしてヒーロー性を喪失してきているのではないかという反省みたいなものがあるのでしょうか?

河森 それは間違いなくありますね。状況に流されていく主人公ではなくて、状況を変えてゆく主人公でないと、少なくとも現代の「なんかどうでもいいや」といった風潮は乗りこえられないんじゃないかと思うんですよ。それに、やっぱりキャラクターが行動した方が絵にしても話にしても面白いですしね。

大野木 昔はそういった行動的なキャラクターを、アニメだといわば直情バカといったものに仕立てあげて、話を展開していったと思うんですよね。で、それが結局あまりにパターンになりすぎて、ならば直情バカではない人間像はどういうものかというところから悩める主人公みたいなキャラクターが新しく登場するようになってきたと思うんです。つまり、ただ走りまわるんじゃなくて、どっちに行ったらよいか判断に迷ったり、自分を反省してみたり、悩んだりするといった、言ってみれば普段の僕らと同じレベルの問題意識でもって生きていくキャラが増えてきた。けれども、それは同時にキャラクターからヒーロー性がどんどん失われてゆくことにもつながったと思うんです。
 そこで今回の作品はどんなキャラクターを登場させようと考えた時に、そのキャラのヒーロー性を失わずに、それも昔の直情バカに戻るんじゃなくて、新しいキャラクターが作れないものかということでこの主人公のような一言で言って直情天才(笑)、といったキャラクターができたわけです。

森田 悩みというのは解決されなければならない、という感覚が欠如して、ただただ悩み続けるだけになってきちやったでしょ。

河森 直情傾向のキャラクターが増えすぎちゃって、その時に悩める巨人公が出てくるのはたしかに新鮮なんですよね。ただそれが、悩める主人公が一、二回出るのはいいんですけれど、悩まないといけないになってしまうと、なにか無理矢理悩ませるような、悩まなくてもいい時にも悩むような主人公になってしまうと、もうウットウしいわけですよね。悩んだ末にそれを解決してゆくのが面白かったのに、解決できないからしょうがないからズルズル戦っているんじゃ、興味は薄れていってしまいますよ。当然『ガブリエル』の主人公も悩まないわけじゃないんですけども、悩むより先に行動しよう、当たって砕けろ、失敗したっていいじゃないかっていうタイプの、そんな気分の主人公なんですよね。


●日本では"核"は思考停止の手段。が、果たしてそれが真に倫理的な態度なのか?
  略

●"核"はテーマではなく小道具。エンジョイできる物語を作りたい
  略

P63〜64
●もの真似が横行する業界に真の独創性とは何かの問いをつきつけたい


片岡 あと今回の企画で忘れてはならない大切なことは、スタッフとして参加している人たちにとっての共通した意識というのは、今までにない全く新しいものを作ってやろう、言い換えれば独創性のあるものを作ろうということがあるんです。アイディアに独創性がなくても作品全体を見た時に、この仕事は新しい仕事だな、と言われるようなものにしたいと思ってるんです。
 だから、僕はあえて傍観者的な態度でものを言いますとね、「この企画が提起した問題は大きいよ」と業界に問うている部分がある。映像にたずさわっている人に対して「人の真似ではない"独創"って何だろう」という事を突きつけたいわけですよね。それもデスクワーク、机の上の考えということではなくて、作り手の生活習慣まで変えなければ生まれてこないような本当の独創性ですよね。で、僕にはこの仕事全体の独創性に対しては自信がありますね。と言うか、独創性に対する誠意かな…。

河森 正確にいうと、まだ誠意でしかないですね。それに、できあがったものでその誠意を評価してもらおうなんていうつもりはないですけどね。

片岡 そりやそう。でも少なくとも、独創性のあるものを出していこうというスタッフの熱意は疑いようもない事実としてある。でも、その独創性に対する誠意すらなく、作品を作っている人がたくさんいるでしょ。

OUT でも独創性ということは、ものを創造する人間が一番根本にしなければいけない問題なんですよね。

河森 そうですね。

OUT が、残念ながら、日本人は模倣の天才とか世界で言われてて、その点が非常に弱い。さっきから日太人の弱点ばかり言ってるようで嫌なんですが、どうして模倣に費やす労力をオリジナリティに向けないんでしょうねぇ。例えば、日本国内にそれもアニメ業界に視点を限定しても、なにかヒット作が1本出ると、それを模倣というんじゃないけれど、気分として追随した作品が次から次へと出てきて当然ボルテージは下がってゆく。そのことに費やすエネルギーを独創性に向ければ、よほど全体は活性化されるはずなのに。

河森 だって実際に技術的には優れた人は日本人にはゴマンといるわけですよ。だから「なんでこんな上手い人が、人の真似をやって喜んだり、満足しているんだろ?」って不思議でしょうがないんですよね。

森田 それはね、本当の意味でホメられたことがないからだよ。「何々にそっくりだ」ってホメられたことはあるけれど、「これは今まで見たことがない。スゴイ!」ってホメられたことがないからだと思うよ。

宮武 でも、それをホメ言葉ととるかね?

森田 うーん。たしかに「これは今までに見たことがないからダメだ」って言われる場合もありますね。

大野木 だいたいそうでしょ。

森田 とすると、その根幹は学校教育からだ。

河森 そう。だから、日本人が劣っているんじゃなくて、現在の社会のシステムがたまたま独創性のある人間を育てない方向にあるって考えた方がいいと思うんですよね。だって外国で研究して優れた仕事をする日本人の学者って多いでしょ。だから、そうやって考えてくと、社会のシステムが悪いんだったら、社会を変えていくしかないと思うんですよ。

森田 ずい分とまた過激な。

大野木 まるで全共闘のような発言。

河森 いや、変えると言ってもそうじゃなくて。つまり物理的に社会を変革しようという意味で言ってるんじゃなくて、意識の問題ですよ。意識で変えるんだから、意外と楽なはずですよ。ちょっと本気になりさえすれば…。だって要するに気の持ちようっていうことだから。
 だから、他人と同じことをやるとホメられるという風潮をなくすだけでも、それだけでも十分変わると思うんですけどね。例えばイギリスに行ってきた知り合いが悔しがって言うんですよね「あの連中に勝てないはずだよ、子供の頃から『お前は他人と同じことをやってはいけないよ』と言われて育てられているんだから」って言うんですよね。

宮武 その辺に関しては面白い話があって、日本でのことですけど、私がレストランで食事をしていた時に後ろの席で、お母さんが自分の子供に向かって「ほらっみんな静かにしてるでしょ、お前も静かにしなさい!」って言ってた(笑)。つまりこの一言でもって日本のオリジナリティは崩壊してゆくわけです。だから、もし本当に変えるんだったら、そこから変えなくちゃいけない。日本人の中から独創性のある人間を育てていくんだったら、そうした母親の子供を叱る一言から変えていかなくちゃいけない。

片岡 もっと残念な話をすると、ものを作ろうと思っている人間が映像を見たり本を読んだり色々な経験をする中で、何かと出会った時に「これは使えるな。いつか使ってやろう」という人間と「これはスゴイ。これを考えた人は、どういう過程でこれが出てきたか」と考える人問とではまるで違うんですよ。プラスとマイナスの大違いなんですよ。だから今まであまりに安易に他人のアイディアを使うことを許してきた社会がある。これは僕らにも責任の一端があるんですけどね。

森田 端的な業界用語がありますよね。打ち合わせをしてて何かポッと言うと 「あっ、それいただきます」っていうやつ。これ、最低。

河森 それに似たようなことでは、僕らがこの業界で仕事をしていて一番悲しいのは、「ああいう作品を作ろう」という一言が嫌ですね。もうその一言を聞いた瞬間に、すべてが終わったな、もう何もできないなと思いますね。せめて「あれがあるんだから、それとは違うものを作ろう」って考えてほしいですよね。
 それと、真似るにしても、他人の作品を真似てしまうんですよね。それまでの他人の作品以外のところで、色々な出来事や物から発想のヒントを得るっていうのはいいんだけど、作品を真似ちゃうんですよね。それに費やす労力は無駄というか、もったいないと思いますね。だって真似られるだけの力は持ってるわけでしょ。だったら自分独自のものを作ろうとする方が何十倍も面白いのにね。みすみす独創の楽しさを自分で捨ててるんですよね。
 少なくともそういう風潮だけは、あまり意味がないからやめてほしいと思うんですよね。

宮武 それは本来ならば創り手としての最低限のモラルだからね。
 で、他人の作品を真似てはいけないっていうことはもちろんなんだけれど、われわれも今回の作品で気を付けなければならないことは、なにも日本国内のものを真似ないからと言って、じゃあ欧米のものに右へ習えじゃいけない。欧米においてもこの作品はオリジナリティがあるという風に認められるまでにならなければいけない。だから今回は、そこまで突き抜けるためのまず第一歩ということなんですよ。

OUT なるほどね。では、結論めいたお話が出たところで一応終わりにしたいと思います。とにかく、新しい作品を期待しています。



※対談の半分以上、及び企画書部分をはしょっていますので(要はウチ向けな内容の箇所のみ)、
こみゅにけーしょんの際にはその点に御注意下さい。



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