大世紀末コンセプト・ノート

坂井直樹

発行/東急エージェンシー(1996/4/1)
p116〜118より抜粋


日本はメッセージを待っている―――ホワイトグッズ


シロモノ家電/デザイン不能アイテム/技術の進化とスペックの同一化/白紙

 シロモノ家電というのは、冷蔵庫とか、エアコンとか、洗濯機のように四角い形をして、なぜか必ず白いボディをした電気製品みたいなモノをイメージをしてもらえばいいのです。通称(業界用語)シロモノ家電。これは英語ではそのままホワイトグッズと言われることを、つい最近知りました。

“デザイン不能アイテム"というネガティブな空気を、この言葉は持っていて、どうもデザイナーに対してそそらない、あるいは、デザインに対してのどんなチャレンジをやろうが、インパクトのある結果に繋がらないという、プロダクトデザイナーのあきらめの意味も含まれています。
 この言葉が持つもう一つの悪い意味は、技術がどんどん進化するということは、中身が同一化していくということでもあるということです。(ウォークマンを頭に浮かべてくだざい)。技術の進化が生み出す、デザイン死滅の典型的な兆候です。
 シェア主義の問題をナンバー03で話しましたが、ますます競合メーカーの競合商品が、そっくりの顔をしていくということと、このホワイトグッズの顔はどうもよく似ている。
 カラーリングが豊かであるかどうか、そんなことには関係のないホワイトな話です。

 自動車業界に非常に詳しい、BBCのピーター・ライアンというインタビュアーと話をした時に、彼にこう言われました。「坂井、どうして日本は自動車までホワイトグッズなんだ。街の中に見られる建築もホワイトグッズだ。」
 全く個性を持っていない、のっぺらとしたものというイメージで彼はホワイトグッズという言葉を使ったのです。彼のこの日本のデザインヘの酷評は、僕の想像を超えていました。欧米人が全て彼と同じ意見を持っているわけでもないし、僕の経験した中では最も厳しい評価です。僕自身は、日本の製品に対してもう少しは高い評価をしましたが(身贔屓をさしひいても)、ある視点から見ると、ホワイトグッズなどと言われて、国際社会でさげすまされるようなデザインをわれわれの国が輩出してきたこともまた事実です。

 そしてこの間題は、この本のナンバー01から30までの全内容が、実はクロスワードし、リンクし引っかかっている問題だとライアンの語り口から思ったわけです。
「ホワイトグッズ」は、日本の工業化社会50年間――明治から数えれば100年――の最も悪しき結論、トドメの一語だということかもしれません。国際的な意見が言えない、核の傘のなかで、外のない身「内」だけの日本が行ってきたこの50年のアウトプットは、極論かもしれないけれども「白紙」です。少なくとも、外から見るとき、そこにはなんのメッセージも読み取れないのですから。

※ちなみにホワイト・グッズに関しては、「秘伝 未来からのモノづくり―ポスト空洞化時代の商品開発作法」(かんき出版 1995/10/4)でも触れられています(表紙は永井豪先生!)。


余計なおまけ

大末期種コンフリクト・ノート

白井直樹

発行/争痛エージェンシー(2005/10/25)

ガノタは次のガンプラを待っている―――ホワイトグッズ

シロモノガンダム/デザイン不能アイテム/ガンプラの進化とスタイリングの同一化/白紙

 シロモノガンダムというのは、○○ガンダムとか、△△ガンダムとか、□□ガンダムのように四角い形をして、なぜか必ず白いボディをした電気製品みたいなモノをイメージをしてもらえばいいのです。通称(業界用語)シロモノガンダム。これは英語ではそのままホワイトグッズと言われることを、つい最近知りました。

“デザイン不能アイテム"というネガティブな空気を、この言葉は持っていて、どうもメカデザイナーに対してそそらない、あるいは、メカデザインに対してのどんなチャレンジをやろうが、インパクトのある結果に繋がらないという、メカデザイナーのあきらめの意味も含まれています。
 この言葉が持つもう一つの悪い意味は、ガンプラがどんどん進化するということは、外見が同一化していくということでもあるということです。(マスターグレードを頭に浮かべてください)。ガンプラの進化が生み出す、デザイン死滅の典型的な兆候です。
 シェア主義の問題を以前に話しましたが、ますますバンダイグループの競合商品が、そっくりの顔をしていくということと、このホワイトグッズの顔はどうもよく似ている。
 カラー着彩が綺麗であるかどうか、そんなことには関係のないホワイトな話です。

 玩具業界に非常に詳しい、ABCのピンク・ハーランというアナリストと話をした時に、彼にこう言われました。「白井、どうしてガンダムは全てホワイトグッズなんだ。アニメの中に見られるキャラもホワイトグッズだ。」
 全く個性を持っていない、のっぺらとしたものというイメージで彼はホワイトグッズという言葉を使ったのです。彼のこのガンダムのデザインヘの酷評は、僕の想像を超えていました。一般人が全て彼と同じ意見を持っているわけでもないし、僕の経験した中では最も厳しい評価です。僕自身は、バンダイの製品に対してもう少しは高い評価をしましたが(身贔屓をさしひいても)、ある視点から見ると、ホワイトグッズなどと言われて、一般世界でさげすまされるようなデザインをわれわれガノタが歓迎してきたこともまた事実です。

 そしてこの間題は、この中での全内容が、実はクロスワードし、リンクし引っかかっている問題だとハーランの語り口から思ったわけです。
「ホワイトグッズ」は、ガンダムの歴史25年間――マジンガーから数えれば30年――の最も悪しき結論、トドメの一語だということかもしれません。一般人の意見が聞こえない、オタクの壁のなかで、外のない身「内」だけの日本のガンダム界が行ってきたこの25年のアウトプットは、極論かもしれないけれども髭を除き「白紙」です。少なくとも、外から見るとき、そこにはなんのメッセージも読み取れないのですから。

(※この文章はフィクションであり、人名は架空のものです。)

2005/10/25


Library
Library

G_Robotism