河森正治インタビュー

「GAMEST GRAPHICS Vol.1」より


新声社 ゲーメストムックVol.170 キャラクターデザイン特集(発行日・1999年2月27日)P32〜35より抜粋。

 「超鋼戦紀キカイオー」企画原案・メカデザイン
 河森正治インタビュー


 

これからは質感をふまえたデザインが必要とされます。



「スタジオぬえ」の一員であり、アニメ、ゲーム両方の分野で活躍する希有なクリエイター・河森氏。
その現在の創作のスタンスを聞いてみた。


聞き手:猿渡雅史
     北裏裕章


Gガンダムは、先にやられたって思いました。


ゲーメスト北裏(以下G北):今日のインタビューは、キカイオーからメカデザイン全般に対して河森さんなりの考え方や方法論的なものを併わせて聞ければと思っています。まず、ムックのインタビューですでにお聞きしてますが、キカイオーに関して企画を立ち上げ始めた時というのはどんな感じだったのでしょうか?
河森:自分でもよく年数を覚えてないんですけど、カプコンさんに行った時点で5〜6年前になるはずなんで、まぁ、6〜7年前に考えた企画です。当時まだ格闘ゲームとかって世に出ていなかった時代で、元の異種格闘戦、まだ巷でもアルティメットとかが流行る前で、徐々に話題になっていた頃だと思います。また、様々なロボットアニメのジャンルがあって、だけど結構行き詰まってた時期ですね。
 何やったって、リアルロボットってある種限界がある。で、自分らも気をつけなきゃいけないんだけど、どんどん敵も味方も似てきてしまい、だんだんロボットの見分けが付かなくなってしまって。特に当時のコンピューター技術でいうと、まだプレステもなかった時期だけど、本当に表現力が限られてる。その表現力が限られたところでロボットを出したときに、あきらかに見分けがつかなきゃつまらないと。そうすると、同じジャンルのメカだと、どうしても似てしまうので、だったら完全に違うジャンルの対決をやったらおもしろいんじゃないかと思ったんです。それもロボット単体でなくてその世界観を背負って戦うみたいな世界です。
G北:「Gガンダム」的な世界ですね。
河森:ある意味そうですね。Gガンやられたときは、マズイと思ったんですよ。TVで先にやられてしまったかって。
 まぁでも、そんなノリで考えてて。これが例えばロボット大戦みたいに今まであったものだったら絶対にバランスとれないですよね、強さの度合いなんてとれないですからね。でも、新しくオリジナルで作るものであれば、一応のバランスはとれるだろうと考えたんです。リアルメカなんだけど、弾がすごく強いといった設定は当然できるわけだし、スーパーヒーローで、スーパー合金は使ってるけど弱点はあるといった設定もできるわけだし。

ゲーメスト猿渡(以下G渡):それで、実際カプコンさんで企画が通って、結果的に河森さんが関わってきたアニメのパロディ的世界になるわけですが。
河森:ええ、そうなんですよ。パロディにはしたくないって言ってるのに、カプコンさんがそっちにもってくんですよ(笑)。
G北:カプコンさんから70年代中心というコンセプトがあって、メカはいかにもこれっというような提示はあったんですか?
河森:いや、さすがにそこまではないです。ただ、全体をまとめる上でカプコンさんに一応初期にこちらで立てた企画を見せて、色々打ち合わせして、あえてリアルメカを中心にするのはやめようと。リアルメカ中心だとどうしても今っぼくなっちゃう。それで、カプコンさん側からキカイオーを中心に据えようと言ってくれたんで、まぁ、ある分楽になりました。
G北:ラファーガ・ディクセンのラインがギリギリのラインで、それ以上はリアルにはしないという感じですね。
河森:そうそう。紛らわしいのは出さない。結構こういう言い方は悪いかも知れませんが、最近のリアルメカってスキマ産業的なものがあるじゃないですか。あれとあれの間はまだやってないって。
G北:「宇宙の戦士」と「パトレイバー」の間のリアルはまだないとか。
河森:そう。それって本当にマニアの人にはよくても他の人にはまるで関心のない世界とかになるじゃないですか。

G北:実際に変形合体メカが何体かいますが、その辺はどうデザインを起こされましたか?
河森:ある程度レゴブロックで組んで試しました。まあツインザムぐらいだと頭の中だけで出来るんですけどね。
G猿:ラファーガとワイズダックはどうでした?
河森:これがね、一番早かったですよ。両方とも。誰も文句言わせん!って(笑)。
G北:マクロスの本家がデザインしているわけですからね(笑)。逆に気を使ったものはディクセンとか?
河森:本当にねぇ。カプコンさんからは、ディクセンに目をつけてくれとか言われたりして…。でもガ○ダムになっちゃうから、目だけは勘弁してくれとか(笑)。

G北:逆に、敵のほうで自由にデザインできたりはしましたか?
河森:ガムダなんか敵じゃなくて最初は主役メカの一体だったんですよ。
G北:そうだったんですか。
河森:遺跡メカっていう、主役があってもいいんじゃないかって。でも、あまりにもデカくなりすぎてバランス取りきれないからって敵の側に回ったんです。
 今回、ラファーガはエンジン付いてるから肩がデカイじゃないですか、それとパルシオンは肩がデカイじゃないですか、これはシルエットが似てるか似てないかって話で、検討事項になるぐらいに、各メカごとにシルエットの差別化付けようという意図で今回はメカデザインしています。
 特にロボットっていうとやっぱり個性が出しづらいという部分があるので、そこんところはね、形からして変えていかないと。

 このジャンルが好きな人は、何でこんなのが区別付かないだろうと思うんだけども、世間の人は区別付かないんですよね。ガンダムとパトレイバーが同じ作品ですから、普通の人は(笑)。好きな人に向けて作った方が作り易いし、作品を特化できるんだけれども、それを続けてると、だんだん高年齢現象が起きて後が続かなくなってしまうんです。今はいいんですけど、10年後20年後を考えたときに怖いんです。ロボット好きがみんな老人になってしまったりして…。まあそういう人がやっても楽しいし、低年齢がやっても楽しいというのが、本当は作るべき作品だと思いますね。でもやっぱりロボットっていうだけでね、最近の子って生身の方がいいやってなっちゃうからね。
G猿:そうですよね。

G北:河森さん的にどのメカが好きだったりしますか?
河森:結構これ難しいんですよ。このロボットはここがいいとかね、そういうふうになっていくんで、やっぱり絞りにくいですよね。上がってみて、今までに類似品がないんで、ボロンがおかしかったとか(笑)。
 後は一番苦労した合体のツインザム。角張った飛行機の合体って、やっぱり飛行機好きにはデザイン的に耐えられないところがあるよね。うぁー!! こんな飛ばない物オレは描いていていいんだろうか!?って思うんだけども、上がるとなんだか、うむを言わさぬ迫力があって(笑)。こういうのってロボットの一つの王道だよなみたいなね。テクノロジーというか航空力学を無視している所にかえって味があるようなものがあります。これは再発見でしたね。

質感まで考慮しないとデザインが成立しない


G北:実際、河森さんはアニメもゲームも両方デザインに関わられているわけですが、コンピューターが入ることによって変わってきたものはありますか?
河森:ありますね。最初のうちは、コンピューターとポリゴンの使える数が全然弱かったので、すごく制約が多くて、アニメの初期みたいにとにかく三角形、三角のポリゴンで描けるものしかダメだとかあったんです。でも、最近では反対に、ある程度の時間さえあれば相当細かいところまで平気になってきました。
 人間の手で描くと難しいラインていうのがあるんですよ。一見同じような形に見えても、描き易いデザインと描き難いデザインがあって、で、アニメーションのデザインってやっぱり描き易いラインを使うんです。そうすると、やっぱりある幅に落ち着くんだけども。すごく描きにくいライン、でも立体にして動かすと気持ちいいラインていうのがあって。一つの例を出すと、「青の6号」でグランパスっていうのは、手で描くのは凄まじく描きにくいラインなんですよ。全部3次元の曲面だらけみたいな。しかし、ポリゴンでやって、ゆっくり動かしたりするのにすごく向く。画面ではちょっと速すぎるんだけれども。もう少し、ゆら〜って動くのに向く形。あれは手で描けないですよ。それを、しまった!って思うのが、自分がクリーンアップするときに凄まじく大変で(笑)。やっぱり、本当に描き難いなって。そーいう方向が可能になったのがひとつあります。後、もの凄く複雑な戦艦でもね、前は止め引きしかできなかったことが、やっぱ動かせちゃうようになりましたし。

 やっぱり一番大きいのがテクスチャーの問題かな。セルだと、表現できる質感とか限界があって使える色数も限られてますから、ある程度特殊仕上げをすることで、止め絵だったらそれなりの感じは出せてたんですけれども、それはいつでも動かせるわけではなかったですから。デジタルになると、質感の問題はすごく大事になってきて、今までだとメタリックな表現はセルは苦手だったんですけれども、そういうのが使えるようになる。
 あとは微妙な迷彩であるとか、部分部分のパーツを質感の違いによってデザインを仕上げていく。今まではどちらかというとシルエットで、フォルムで見せてたのが、質感まで考慮しないとデザインが成立しないっていうのがこれからのすごく大きな要素ですよね。その、質感をちゃんと使い分けて、ポリゴンのデザインをやっている例って、まだそんなに多くないんですよ。これはこれからすごく課題になってくるだろうな。僕らの世代はね、それが苦手なんだよね。ようするに、それに頼らないやり方ばっかり練習してきちゃってるから。その頭を今切り替えるのが結構難しくて。
 時々すごく形は簡単なんだけれども、質感を考慮したデザインを見ると、こりゃうまいと思いますよね。例えば、コンピューター用じゃないですがキヤノンのカメラのイクシーとかってありますよね。あれはメタルボディだからかっこいいんであって、あれがプラスチックだったら全然ダサイとかね。こういうのは非常に分かってデザインしてるなと思います。

G北:コンピューターの質感表現能力が上がってくることによって、デザインにも影響があるということですか?
河森:今まであったのは全体のフォルムで黒く塗りつぶして見ごたえしていたのが、質感が違う場所によってフォルムが変わるんですよね。メタリックな質感の場所と、メタリックじゃない質感の…こう縞模様でもいいですけど何か入ってたとしたら、メタリックな場所とメタリックじゃない場所というのが、別の存在みたいになってくる。その比率とかでデザインを考えていく。今まではどこのパーツが大きい小さいとかでやってたことをそのシルエットの中でそういうことができるようになっちゃうんで、すごく自由度が高くなる半面、コントロールが難しくなりますよね。
G北:パワードスーツなどデザインした時に、人肌が露出する部分とそのメタリックな質感の部分で、メリハリができて分断されてしまうということですね。
河森:ええ。その分断されたところを、どういうふうにちりばめるかによって、そのバランスをどう取るか。どう関係を持つか。これが、これからの非常に面白い課題になってきます。
G猿:やっぱりそれは、新しいデザインの意識が必要になるということですか。
河森:なってきますね。そういう意味では特に工業デザインは進化しましたよね。小さい物って何でもできちゃうから。例えばその、時計にしたって一昔前のアニメだったらもう、未来時計ですよね。それがもう実際製品として売られちゃうという時代。イクシーなんかね、セルで描いたってあんな感じ出ないですよね。

G北:河森さんの最近のデザインの傾向としてはいかがですか。やはりコンピューター・デジタルなものが入ることで方法論自体の変化というのはありましたか?
河森:やっぱりアニメだけでやってたときよりも複雑なデザインがOKになった半面、自分はなるべく単純にするのが前提の時代だったんで、ディテールを増やせないんですよ。僕らよりも後のごちゃごちゃの慣れている世代の人はどんどん増やせちゃうんですけど。質感の問題に関しては自分の中でまだ回答が出ていないのと、あと背中のデザインの問題。アーマードコアの時の「背中でキャラクターを表現する」という命題は、まだ回答が出きっているわけじゃないんだよね。ここは今、やるたびに気にしているところです。
G北:試行錯誤中ということですか。
河森:もっと見つけなきゃなぁ、と思います。逆に楽しいんですけどね。今の時代は、やれば突破口が見えるかもしれないんで。そこは面白いよ。
 ただね、デザインしてて困るのは、紙へスケッチしてても質感なんて表現できづらいんですよ。カラーにならないとデザインにならないとかね。そういうのは面倒くさいですけどね。昔は線画描けばデザインが終わった気がしたのに。

個性の出し方は二種類ある


G北:今後ある程度パーソナリティ・奇抜さではないオリジナリティっていうものが要求されようになると思いますか?
河森:必要っていうんですかね。その、ずーっつと世界中から日本にはオリジナリティがないって言われ続けるのが、とにかくイヤだっていう。なんで二番煎じだったら世界一うまいのにって言われ続けるのはイヤですよね。やっぱり。
G猿:それを言ったら、メカデザインは…でも工業製品になるとダメか。
河森:そう、車のデザインはイタリアにかなわないし。日本でいいデザインの車といえば、イタリアやアメリカのデザイナーが裏で関わっているのがとても多いわけだし。悔しいですよね。非常に限られたね、アニメーションコミックの、しかも高年齢向けっていう非常に限られたジャンルだけは世界中の中では特化しているのは事実だけどね。
G北:それだけに集中してしまうと、市場が閉塞しちゃうと。
河森:そうそうそう。例えば、本当にガンダムなんかがいたら恥ずかしいじゃないですか(笑)。どっから見たってもう、格好悪いなんてもんじゃない。
G北:一時期、ハリウッドの企画でありましたよね。
河森:あんなの実物で見たらさ、蹴りたくなるぐらいウソくさいけどね(笑)。ところが、絵で見るといい。そのかわり、本物のデザインていうのは本物だとすごく格好いいけれども、例えば実際のスーパーカーとかでも絵に描くといまいち、よっぽどうまい人が描かない限り弱いデザインなんですよね。その辺のバランス比率が変わってくるのがCGの難しいところなんですよ。アニメーションだと、すごくマンガチックなデザインでOKだったのが、CGでやった場合、作品のキャラがマンガっぼければOKなんだけれども、作品のカラー自体がリアル路線の場合に、ちょっとでもマンガくさいデザインだとすごくマンガくさく見える。これが映画の「マスク」とかみたいにね、最初っからマンガですってやると、何でもOKになんですけども。その辺のすごく作品のジャンルに対するデザインというのも適合性を要求されちゃうていうのかな。

G北:世界観になじませる中で、さらにパーソナリティを出していくやり方、みたいなものはありますか?
河森:個性の出し方って二種類あって、どんな作品をやろうと、その人のデザインに見えるっていうやり方と、なるべくそのデザイナーを匿名にしてその世界の中の誰かがデザインしたって見せるやり方ってあるじゃないですか。で、リアル路線だったら、やっぱりその世界の中の誰かデザインしたっていうふうにしたいし、マンガチックな路線ならば、今度は逆に自己主張を強くしてもいいし。そういうのの兼ね合いってとかを結構気にするほうですよね。気にしない人は全然気にしないですけどね(笑)。どんな作品でもその人にしか見えないっていう。どんなリアルだろうがどんなマンガだろうが、出てくるデザインは同じ(笑)。

G猿:個性的なデザイナーさんて、デザインが定番化していくということはありますか?
河森:個性的な人の場合はね、もうその人のパーソナリティがあるじゃない、横山さんみたいなね。もう、どこでやっても横山さんみたいな。すごくうまいですけどね。
 そういうやり方だと、色々な作品に対応するのが難しいじゃないですか。あちこちから依頼受けちゃうので、なるべく合わせて、マンガならマンガという方向性で。でもリアル物やると、悪影響でマンガがやりにくくなるんだよね。どっか、頭が堅くなる。たまには本当に大マンガなマンガをやりたいんですよね。そういう意味では、話が戻るけどツインザムやってるときに、手が止まってしまいましたね。理屈にあわないのがわかるから。
G猿:抵抗ありますか。
河森:凄く抵抗ありますね。あのときね、頭堅くなってるわってわかりました。ああいう時、宮崎さんのガンシップみたいに、あれだけリアリティ無視して機首にピストルくっつけて(笑) 平気で飛ばせるかどうかですね。あそこの思い切りって迫力になりますからね。平気でウソがつけるかどうかはその人の人間力に関わるみたいなところがあります。オレはまだあそこまでウソつきにはなれない(笑)。
G北:理屈に合わないデザインが許せないというところですか。
河森:どっかで心配になっちゃうんでしょうね。機械工学あがりの人の悲しさなのかもしれないけれども。そういうところは、漫画家さんとか強いじゃないですか。先日の松本零さんみたいに宇宙戦艦なのに後ろは帆船だ、みたいな。やられた!!って思うよね(笑)。あの辺はやっばすごい、影響は受けないようにしてるつもりでも参考にはしてますよね。キャラクター性のなんたるかをこの人は知ってるって。

メカデザインのノウハウ


G北:メカデザインに話が戻っちゃいますけれど、さっき「シルエットでわかるメカデザイン」の話が出ましたが。
河森:あれも変わってほしくないですよね。僕はもう「ぬえ」でデザイン習い始めた頃からとにかくまず言われたのが、真っ黒に塗りつぶせって。真っ黒に塗りつぶされて、そのデザインが何だかよく分かんない限りそれはデザインって言えないと。そういう意味じゃね、ごちゃごちゃしたやつってもうそれだけでヤバイですよね。それだけでもう、「ごちゃごちゃしてる」ってひとくくりになっちゃうんで。
G北:最近ゲームはポリゴンの表現能力が進化してゴテゴテデザインが可能になってきてる現状がありますが、アニメに限らずそういった方法論って共通のもの、という感じですか?
河森:というより、キャラクター性ですよね。デザインそのものっていうのだったら複雑だろうがなんだろうがかっこよきゃいいけれども、それがキャラクター性を持つって意味だとするとあんまり複雑っていうのもやばい。まあ複雑でも同じ形の反復とかを複雑にやるぶんにはこれは平気なんですけれども、そうじゃなくて、まとまりなく色んなディテールが入っているというのが一番ヤバイでしょうね。ある種統一された記号、記号としてのディテールが全身に散りばめられても、これはそんなに複雑とは言わないんで。

G北:キャラクター性を立たせるときに、シルエットが重要になるわけですね。宮武さんなどからキャラクター性を起こす時に注意されてきた方法論は、他にもありますか?
河森:方法論ではね、僕がぬえに入ったときに言われたのが、一点視法とか一点集中法とか言われる、とにかくいろんな尖った物とかが、ある胸なら胸のシンボルに一点に集中するように、放射状に並べるっていうのは言われましたよね。感覚的にすべての線がそこに集まるようにと。ロボットでそれを徹底的にやったのがライディーン。初代のライディーンのデザインていうのが、一点集中法の見本みたいなデザインですよね。

G猿:今はソフトとか自分で立体をデザインできちゃう時代なんですが、これからメカデザイナーとか目指している人に、「これをやるべきだ」というものはありますか?
河森:オリジナリティっていう意味ではもっと根本的な事をやるべきですよね。なんでかっていうと、ソフトはどんどんさらに良くなっちゃうだろうから、もっと簡単にモデリングできるようになるだろうし。ある部分モデラーに任せてもいいわけですからね。極端な言い方しちゃうと、デザイナーって絵が下手でもかまわないと。
G猿:なるほど。
河森:本当に個性的な物って、逆に絵が下手なぐらいのほうがいいときってあるんですよ。絵がうまいと、その絵の腕でカバーできちゃうから。絵がうまいからごまかせちゃってるデザインっていうのは、フィニッシュしてみると弱いケースって多いですよ。一番近いのは、浸画家は絵が下手なほうが作品が面白いケースが多いって。あとはやっばりリアル系のメカがやりたければ、なるべく本物を見る。もうこれに尽きちゃいますよね。やっぱりプラモデルを見た人のデザインって、プラモデルに見えるし。まあプラモデルでも格好いい物は格好いいわけで、善し悪しじゃないんだけども。

G猿:河森さんはメカデザインをやる上で、なにかをずっと見続けてきて影響を受けているものなどはありますか。
河森:車、飛行機、アポロ…NASA関係ですか。
G猿:今ってやっぱりそういうような物を見ろっていうような感じですか。なにか今の若い人に言うことがあるならば?
河森:お金があったらイタリアに行くべし、ですね。デザイン目指すなら一回は行って損はナイと。バックパッカー覚悟で一月ぐらいイタリアでうろうろしてて、昔の彫刻見たり、町中走ってる車見たり、車のディーラー行ったりして…要するに個性的なのが当たり前の国っていうのが世の中にはあるんだと。日本みたいに没個性が当たり前の国じゃなくて。その当たり前っていう風にあたってね、変わったことを自分がしようとしてるんじゃなくて、このくらいやって当然というのを見ないとなかなか意識が切り替わりにくいかもしれない。アメリカ行ってもアメ車はダサいんで。かえってデザイン下手になって帰って来るかもしれない。売れるかもしれなくても下手になると思う。

G猿:では、これからメカデザイナーを目指す人に一言あるとすれば?
河森:これから、メカデザイナーになるの?知らないよ食ってけなくても?よほど覚悟がある人しか勧めないですよ。
G猿:何か勉強すべきことってありますか?
河森:でもほんと、特別個性的であるとか、特別強い絵柄を持ってる人はもうなんでも好きにしていいんだけど、そうじゃなくてなろうとした場合は本物見た方がいいし。まあ、手っ取り早いのは手近な車のショールーム行くんでもいいし。本物をなるべく見る。で、触ってみたりとか、そういうのをやっとくと特にこれからのデジタル時代には強いですよね。
G猿:車と飛行機という話が出ましたが、それ以外にはなにか?
河森:車、飛行機、戦車、船。あとは今工業製品、特に工業製品の見せる物はデザイン進んでるよね。俺なんかかなわないもん、やっぱ。
G猿:なるはど。オーディオ機器とか。
河森:そうそう。あれはやっぱ普段から手に持つのになれてる連中にはかなわない。あとはF-1とか。見れる限りは足を惜しまずに見た方がいいですよね。見に行けるんだから。博物館だろうがなんだろうが。特にアメリカなんか飛行機なんか腐るほど置いてあるんだから。日本とは全く比率が違うんだよね。その辺は見ておくべきかな。
G北:本日はお忙しい中ありがとうございました。



オマケ1
新声社 『ゲーメストムックVol.163 超鋼戦紀キカイオー魂』より部分抜粋

p94
Q:デザイナーとしてのポリシーがありましたら教えてください。
河森:とにかく差別化ですね。「どれを見ても同じ」なのは悪くはありませんが、それがリアル系だとどうしても限界が出てきてしまう。あとは、当然のことですが、“世界観と一体化したデザイン”に執心しました。 パルシオンとディクセンのフォルムで宮武ともめたくらいですから、やっぱり塗りつぶしてわかるようなデザインでないと一般の人にはキツイでしょう。そこには広くプレイヤーを求めたかった、という意味合いも含みますね。

Q:最後にエンドユーザーである、プレイヤーの皆さんにメッセージをお願いします。
河森:いろんなロボットに好き勝手な自分なりのストーリーを作って楽しんでもらえると嬉しい。また、何かいいのを思いついたらカプコンさんにでも送ってみたらどうでしょうか。あちこちのパラレルワールドで、自己増殖して暴走してくれると嬉しいです。



オマケ2
小学館『THIS IS ANIMATION THE SELECT マクロスプラス MOVIE EDITION』より抜粋

92p
河森:ニューヨークへ行って、ミュージカルとかのチケットをおさえておいて、そこからワシントンのスミソニアン博物館へ行きました。でも、がっかりしちゃって。置いてある物が悪いんじゃなくて、展示方法がハンツビルやライトパターソンに比べて悪いんですよ。骨董品として置いてある。現用塗装じゃなくて展示塗装になってたり、死体博物館になってしまっている。有名な博物館なのに、なんだぁ〜これはみたいな(笑)。
●エアレースも見に行かれたとか。
 レースそのものも面白かったんですが、その前のアクロバット飛行がものすごくて、こりゃまいったな、こんなことまでやるの(笑)というくらいすごい。日本でもピッツというアクロバット機の飛行などを厚木の基地で見ているんですが、日本は航空規制が厳し過ぎて複雑な演技ができないんですよね。
●飛行機を見る以外に旅の目的は?
 ショー関係ですね。(中略) ちょっと仰天してしまいましたね。(中略) エンターテインメントに対する考え方が変わりましたよ。(中略) 単にお手玉で立派に観客を笑わせる演出とか、演技の間の気持ちよさとか、腹話術だけで感動してしまう。何モンなんだこいつら、俺は今、まさに腹話術で感動しているぞぉ(笑)。そのくらい芸のレベルが違う。同じものでありながら違う。それをクリアしなければ、本当に世界に通用するものはできないでしょうね。



関連色々


雑記08-10
 当サイトの河森氏関連(?)ネタ。

1/50,000,000の勝ち組
 極めて非常に重要な関連発言。

カプコン 超鋼戦紀 キカイオー
こちらキカイオープロジェクト研究開発室
 公式サイト。ちなみにキカイオー、ワイズダック、豪雷、ガムダ、ゴルディバス、クヴァールは宮武メカ。

ボロン 河森ラフ
 スキャン画像(『超鋼戦紀キカイオー魂』p122より)。
 操縦席は風呂屋の番台。クリーンアップではオミットされた文字にハァハァ・・・。


2008/10/28
(2008/11/10 字修正)



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