ガンダムゲームMS黒歴史-5

いちご大福にオリジナルMSを見た!-5
MSエキスパート委員会(仮称)・特別座談会(最終回)

角川書店「電撃ホビーマガジン2001年11月号」P52〜53

MSエキスパート委員会(仮称)、2年間の足跡
各種、(〜中略〜)連載の最終回となる今回は、最新ソフト『ジオニックフロント』を中心にお贈りしよう。

MSエキスパート委員会(仮称)、スタッフ
バンダイ・ホビー事業部:川口克己、狩野義弘
バンダイ・ビデオゲーム事業部:稲垣浩文、牛村憲彦
バンダイ・SWAN事業部:堀内美康
伸童舎:渡辺利浩 ライター:岡崎昭行
サンライズ:堀口滋(大明神)、森田彰啓
座談会特別参加
デザイナー:片桐圭一郎 電撃ホビーマカジン編集部:柴原宏則

●オリジナルジム
柴原:このゲームではOMSとして連邦側の2機がデザインされてますが、まずは「オリジナルジム」。
片桐:これはM‐MSVのデザートジムをベースに『ギャザービート』の『ジムジャグラー』と同じ素体からアレンジしました。
森田:ゲームでは特殊なキャラクターが乗るわけではないんですよね。
牛村:特にそういう設定にはしてません。連邦軍の拠点に普通に配備されています。
岡崎:このデザインなら特別なキャラクターや部隊に乗ってほしい。じゃないとフクラハギまわりのデザインがちょっと納得いかない。普通のパイロットが乗るなら、脚のデザインは普通でよかったんじゃないかな。
牛村:そうすると、特殊な部隊をゲーム中に登場させてもいいということですか?
岡崎:主人公が連邦のときにはジオンの特殊な部隊が出ることもあるから、いいんじゃないですか。もちろん、軍隊からはあまりはみ出ないほうがいいけど。
片桐:うっかり設定すると大変。
堀口:ひとつの嘘のためにさらに大きな嘘をつかなきゃいけないからね。
岡崎:ユーザーは発表されたものはすべて受け止めるわけで、送り手がはっきりと「IF」だと言わないとすべてを受け止めて公式な歴史に組み込んでしまう。その点さえ踏まえておけば大丈夫たと思います。
堀口:ただ、設定に矛盾しなければ特殊部隊を出してもいいというわけじゃなくて、ゲームの面白さを演出する要素としてそれが考えられていればOKだと思うんです(その上で基本設定に引っ掛からないように練り込んでいく必要はあるけれど、その結果ユーザーに面白いものが送り出せるのであれば構わないだろうと。
ジオニックフロントでは一年戦争中にひとつの部隊が地球各地を転々とするという大嘘をつくわけですから、それなりの状況を作り上げるためのディテールとして特定の部隊やキャラクター、MSを設定するというのが理想的かなと。
川口:そういう部隊を登場させるとして、大事なのは文章設定じゃなくて、ゲームをやりながら肌で感じられるようにすることだと思うんです。ある目的をクリアするための障害には必然性がないとね(ただ単に「強い」だけっていうのはあまりにも安易。『ガンダム』本編はそれぞれの状況やキャラクターに必然があったからこそなんの違和感もなかったんだと思う。最近は「メカさえカッコよければ」っていう人も増えてるけど、「本当にそれでいいの?」って。
渡辺:話をデザインに戻すと、僕はフクラハギのノズルとスネ正面のインテークがつながってて説得力があってOK。
片桐:噴射があれば吸入があるはずだということで意識的にデザインした部分です。
岡崎:このジムが地上を歩くだけの機体ならこのノズルは不要でしょ。
狩野:この脚のユニットが着脱可能ものならいいんですか?
岡崎:それだと今度は一年戦争の頃の技術を超えてる気がします。これがジム・スナイパーカスタムのように直付けの機構なら技術的には問題ないんだけど。
片桐:でも、現代兵器でもオプション着脱くらいは可能ですよね。
牛村:着脱には施設と時間が必要なら問題ないわけですか。
堀口:基本的な製造工程は素体となった機体と同じなんだけど、その内の数パーセントがこの機体の工程に流されてることにすればいいんじゃない。それなら実際の機械の製造工程にもあるし。
岡崎:こいつのバックパックの大きさはそれだけて「機動力向上」っていう目的を果たしてて、脚の機構は余分な感じがするんです。
堀口:じゃあ、ジャンプ移動とかダッシュ攻撃をすればいいのかな。
岡崎:それならデザインと機能が一致するからOKかな? 結局、使われ方で納得できればいいんです。
片桐:ジム系の機体は普通スペック的にはスラスター出力が自重を上回ってないんですよ。たからスラスターだけでの上昇はできないはずなんです。パワード・ジムですらほんのちょっと上回ってるだけですから。
堀口:そうした設定を守らないと世界観が変わってしまうから、スペックやデザインとあわせて動きや活躍の仕方も考えなきゃいけないってことか。例えば重装甲なら、何発撃たれてもものともぜずに向かってくるとか、わかりやすくてもそういうのが大事なんだ。

●ガンダム6号機
牛村:『ジオニックフロント』では「ガンダムを敵にしたい」というのがあったんですが、まったく新しいガンダムをデザインするのはこちらとしてもやめたいと思ったところで、M‐MSVにいきあたったんです。その中で6号機ならデザイン的にも機能的にもゲームに登場する敵としてはいいんじゃないだろうかと。
柴原:M−MSVといえば“4号機問題”の元凶ですよね。
狩野:NT−1のキット化のときにこの4号機との兼ね合いをどうしようかという話をしたんですが、結局NT−1を4号機とは書かなかったはず。
岡崎:NT−1は明確に4号機とは言ってませんが、デザインそのものはNT−1のほうがかなり先です。
片桐:4号機はNT−1に対抗して作った機体ではないんですね。
岡崎:ええ。さらに『GT−FOUR』なんかもあって、4号機に関してすべての記述をまとめて「連邦の陸海空各軍で開発を進めていた」なんていう説が流れたりする。
片桐:公式な設定なんですか?
渡辺:実はウチが言い出しっぺのひとつなんですが、公的には都市伝説(笑)。オフィシャルではありません。
片桐:じゃあ4号機とNT−1は同じ機体?
渡辺:そこも問題で、『ポケ戦』で初めてフィルムとしてMSをリファインする作業で「実は一年戦争のMSはこういうデザインだった」的な解釈をするという気運が盛り上がっていたんです。結局は「別の機体」ということになったんだけど、NT1−が4号機として認知されているなら、このM−MSVは“計画案”にしておく必要が出てくるわけです。
堀口:私もそのつもりでいて、最初の設計案ではM−MSVだったものが、完成したらNT−1だったくらいに考えれはいいんじゃないかなと思ってるんですが。
岡崎:ただ『MSV』には4号機と5号機が「サラブレッドに積まれてア・バオア・クーに参戦した」という記述もあるんです。
渡辺:それは宇宙世紀0080年の1月くらいでしたっけ(笑)。終戦が年末になって時間が短くなったから削られた設定になったのかな。
岡崎:元々模型の説明書に記述されただけだから、それを知らない人が4号機のデザインだけを見て「NT‐1はどうなの」ということになっちゃうんですよ。
堀口:だとすると最初の4号機のデザインは無くしたほうがいいのかな。
渡辺:いや、あえて残したほうがいいんじゃないかな。同一機の設計案と実物っていうのは面白いと思うし。
堀口:なるほど。「これは設計案でした」というのをアナウンスした上でね。実際、各部の構成なんかを見比べると、4号機とNT−1は腕の武器や脚のスラスター、ランドセルの大きさなど、それほど意匠が違うわけでもないんですよ。あとソールが青いとか(笑)。
柴原:本来ア・バオア・クー戦に参戦予定だった4号機をアムロ用に再設計したということになるかもしれないと。
渡辺:まあ、ガンダムはすでにフィルム作品でも量産されてるわけだから4号機も5号機もないんだけどね(笑)。
片桐:これはNT−1と同じところで開発されたわけではないんですよね。
岡崎:NT−1はオーガスタで開発されたものですから違います。
柴原:1〜3号機は前期型のフレームを使って同じ場所で開発されていて、4〜6号機は後期型のフレームを共用しているけれど、それそれが別の場所で異なる目的を持った機体として開発されたという感じですか。
堀口:そんなところかな。ところで、こいつの名前はどうするんですか?
牛村:「アレックス」のような愛称で「マドロック」になります。
片桐:デザイン的にはどうでしょう?
渡辺:違和感のないところが癪(笑)。
堀口:4号機とNT−1に共通点がみられるところから、6号機もNT−1を意識したラインにして、スペック自体は6号機の設定とまったく同じにしたんです。
片桐:基本的なブロック構成や配色パターンは6号機のままですが、各ブロックのバランスはNT−1に近づけました。腕についてもあえてNT−1と共通のものにしたんです。唯一構成を変えたのがサーベルで、脚についてたものを両肩に装着してあります。
堀口:これはシルエットにしても一目でわかるほうがいいだろうというアイデア。
川口:よくまとまっちゃったよね。
柴原:NT−1の流れを汲みつつ、ちゃんと6号機にも見えます。
森田:ゲームではプレイヤーの敵ですから、どういう“悪役顔”にするかは片桐さんに苦労してもらい、ガンダム顔だけどちょっと悪そうにしてもらいました。
稲垣:将来的にこの6号機をプレイヤーが使うようなゲームが出てきたときに、この顔では悪すぎるかも。
片桐:そのときは“温和な顔”に描き直します(笑)。で、目も赤く光らない。
柴原:いや、EZ8やブルーも赤く光るし、「悪役カッコイイ」っていうのもありますから、問題ないでしょう。
森田:そこまで悪役度も高くないし。
岡崎:それこそ演出。PS2のガンダムもムービーでは凶悪じゃないですか。
堀口:GP02は「ジオンの技術が入っている」という説明もできるけど、6号機は純粋に連邦製だから、デザインを極端に変えるわけにはいかないからね。
森田:委員会(仮称)の目的が、乱発されたOMSの設定面での整合性をより高めることにあるんですから、6号機に「毒がない」のはいいことなんですよ。
柴原:その毒のなさゆえに、この6号機のデザインがユーザーにとって半ばオフィシャル化する恐れはあると思うんです。
堀口:サンライズがここまでやってるわけだからそれでいいんじやないのかな。一方で「6号機の有在自体が嫌だ」という人もいるだろうし。
柴原:設定や扱われ方か気に入らなければ、「どうしても好きになれない」という人が出る可能性もあると。
森田:ただ、当初は「(新しい)ガンダムは出すべきではない」という意見が大半を占めたんですが、ゲームの面白さとしてガンダムもしくはそれに類する機体をボスとして出したいという要請もある。そこですでに発表されている設定の中からどこに落とし込めば納得できるだろうかということになって、100%新規のデザインではない6号機をリファインすることになったんてす。だから安易に新ガンダムを出してるんじゃないんですよ。
堀口:新しいガンダムとしては久しぶりにデザインされたものだよね。
岡崎:Ez8もずいぶん前ですからね。これが21世紀最初の新ガンダムですよ。

●『Zガンダム』以降のOMSの可能性
堀口:一年戦争以降は完全な新型機でも「OK」って感じになるのはあるよね。
川口:いろんなMSを造ってるからね。
森田:形も「これが正解」的なものがないんですよね。
岡崎:各MS間のデザインや機能についてのつながりが見えづらいから。
森田:そういった点を埋めるのも、委員会(仮称)がやっていくことのひとつ。
堀口:それについては、今あるゲームから広げるのではなくて、新たな企画としてしっかりとしたものを作りたいですね。
岡崎:だからといって、安易にプロトタイプや量産型、フルアーマーというのはダメ(笑)。フルアーマーZとか。
渡辺:Zならいろんな形のフライングアーマーを用意したほうが面白いよね。
柴原:既存の機体に何かを加えたり、引いたりするより、今はパイロットや部隊を前面に押出してもいいのかなという気がします。「どんなパイロットが乗ってどんな活躍をしたのか」というところをゲームのオリジナル機としてカラーリングやマーキングの違いのみで出してもいいんじゃないですか?
稲垣:それはありですね。
渡辺:ニムバスやヴィッシュのように、「マーキングやカラーリングでそのパイロットだとわかる」っていうのは、キャラクター設定としてよかったと思いますね。
岡崎:確かに『Zガンダム』だとエースパイロットってあんまりいないよね。
堀口:ジェリドなんかは、肩の色を統一するとかしてキャラクターの意匠がどこかに残ればよかったかもね。
柴原:結局オリジナルカラーって「一年戦争のもの」になってて、唯一例外のレズンも、そこから話が広がってませんよね。
川口:『Z』は基本的に内戦だからエースパイロットは生まれてないんじゃない。
岡崎:内戦のエースは嘘くさいけど、ゲリラの英雄、みたいな人物のパーソナルマークはありかも。
柴原:部隊カラーでもいいと思うんです。
川口:それも一年戦争と同じフォーマットではできないんじゃないかな。
堀口:やり方次第だと思いますよ。実際、どこだったかのゲリラ鎮圧部隊はタイガーと呼ばれてて、彼らが使ってる武器はすごいパワーだったりするわけですよ。そんなところをMSに当てはめればいいんじゃない。
川口:『Z』の頃になると個人というよりはチーム単位のほうがいいんだろうね。
渡辺:ジム・クゥエルみたいな連中とか。
川口:ティターンズがそういう役割を果たすべきだったという気はするね。
柴原:ティターンズの機体はどんな機種であれ紺色で、性能的には一般機よりもチューンナップされているとか。カラバの機体にはなにか特別なマークが刻まれているとか。今後はそういう部分をもっとクローズアップしてもいいと思います。
堀口:人物を絡めてMSを語るのはいいと思うんですよ。これも一年戦争ですが、ホワイトディンゴ隊が好きだっていう人は結構多いんですよね。
川口:特に『ガンダム』はMSから入る人が多いから、その辺は繰り返しでキャラクターも扱わないといけないよね。
柴原:そうしたキャラクターが立てばバリエ−ションも増えると思うんですよ。『MSV』にもそういった側面はあったのに、いつのまにかMSだけが先走ってしまった感じがするんですよ。
堀口:『ガンダム・ザ・ライド』ではへンケン艦長が出たりするように、「既知のキャラクターがいつどこで何をしているのか」っていうところを後付けながら想像できるところも、150年以上続く宇宙世紀っていう『ガンダム』世界の魅力のひとつだと思うんですよ。そんなところをずっと押さえて20年間ガンダムを追いかけてきた、場合によっては我々以上にそうした点に詳しい人がいるわけだから、これまでどおり性能やデザインから導き出される機体を生み出し、見直していく一方で、委員会(仮称)としてそういうキャラクター優先のアプローチを推し進めてもいい時期に来てる気がしますね。
 それではみなさん長時間の座談会、お疲れ様でした。今後も様々なOMSが出てくることになるとは思いますが、よりよいものを生み出すために、今後もご協力をお願いします。

次回予告
次号は番外編。半年にわたって掲載された座談会の締めくくりとして、堀口大明神自ら、この座談会の本当の意図を語る予定。それにあわせてこれまでのアンケート集計結果も発表する。
2004/12/19
12/20微修正
12/24微修正

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