スペシャルインタビュー PART3
●キャラクター&メカニカルデザイナー
永野 護
★ヘビーメタルはどのようにつくられたのか、〃ペンタゴナワールド〃の謎にせまる、大長編インタビュー完結編!
ヘビーメタルは予備の武器かいっぱい!
(十一月号からつづく。)
小沢 そういえば、へビーメタルは予備の武器をたくさんもってますよね。MkUには、パワーランチャーが十三本もつくんでしよ?考えるとこわいけど(笑い)。
永野 腕に四本ずつ、胸とエアインテークに二本ずつ、で、バスターランチャーは腰にセットするんです。最初、このバスターランチャーは全長三十四メートルだったんですけど、バンダイさんのほうからキット化するとバランスがとれないということで、二十四メートルという設定にしました。
小沢 MkUの腰のアーマーは、プローラーに変杉すると垂直尾翼になるわけですけど、変形のプロセスを追ってみると、形が逆になると思うんですが・・・・。実は最近、MkUの造形ラッシュで、変形を考えて作る人たちは、みな悩んでいるみたいですよ。
永野 それは、つけ根がダブルジョイントになっているんです。
小沢 あ、なるぼど、ヒンジがダブルになるから反転ができるわけですか。でも、ガンダム以前では考えられなかったディテーリングですね。やっぱり、実物の機能というのを本気で考えていられるんですね。もうひとつ、オージェの肩の内側の武装のマウントがよくわからなかったんですけど・・・・。
永野 あれは、最初はランサーを飛ばすことを考えたり、三十本全部パワーランチャーにしようとか思ったんですけど・・・・。あのランサーは、タイトロープが張ってあって、六本ずつくらい引っかけられるようになっているんです。
――ところで、デザイン上で、フランス人のもっている東洋趣味というか、中華思想みたいなものを意識していらっしゃるように見受けられるんですが?
エルガイム、そのネーミングの秘密は?
永野 うん、というか、むこう(ヨーロッパ)の人から見た東洋趣味みたいなものは、ズバリありますね。純粋な日本ということだけじやなくて。
――これは小田雅弘さんの指摘なんですが、オージェやMkUを見てると特に強く感じられると・・・・。アシュラテンプル(阿修羅プラス寺〈テンプル〉)とヌーベルディザード(ヌーベルは、新しいという意味のフランス語)というネーミングで、外部から見た東洋感が根底にあるのは、まず間違いないだろうということでしたが・・・・。
永野 それは確かにあります。ほんとうは、いついってくれるのか、だれがいってくれるのかみたいに思っていた部分なんですよ。これは富野さんにも了承してもらって、やるようになったんです。それまでのザブングル、ダンバインと区別するうえでも重要に感じたもので、ネーミングはフランス語とドイツ語の辞書を片手にやっています(笑い)。
小沢 ドイツっていえば、バルブドなんかはSS(ナチ親衛隊)の雰囲気がありますね。
永野 モロにそうです。ドイツ戦車ですよ(笑い)。ポセイダルの近衛隊というのは、まさに親衛隊ですからね。色も黒に統一しようかとも思ったし。十三人衆のへッケラー=マウザーなんて、意識してつけた名まえですよ。マウザーはモーゼルのドイツ語読みですからね。
ヘビーメタルは、名のりをあげて戦った?
――なるほど、アントン=ランドーなんてのも、いかにもそれらしいですね。
永野 いや、あれは実は「スペース1999」の主演をやったマーティン=ラーンドー(「スパイ大作戦」などにも出演しているアメリカの俳優)からとったんです(笑い)。
小沢 十月号のインタビューの中で、へビーメタルは機関車的なイメージっておっしゃってたんで、D51的なのか、ヨーロッパの、洗錬された大陸横腺鉄道のそれなのかって迷ったりしたんですけど、すると、D51的に塗ったこのバルブドなんかは正解だったわけですね。使いこんだ感じの・・・・。
永野 前にもいったけど、へビーメタルは一対一の、どつきあいの世界なんですよ(笑い)。もともとはね、中世の騎士みたいに、名のりをあげて戦うという、非常に様式的な戦闘メカだったんです。
たとえば、「エルガイム」の話の中では、かつてポセイダルがダバたちのヤーマン族を滅ぼしたという設定があるんですけど、ダバの父親であるカモン=ワーラー王とポセイダルは互いにへビーメタルで一対一の決闘をして、最後の決着をつけたわけです。で、そのときそれぞれの近衛隊のへビーメタルはその間、なにをしているかというと、一歩さがってそれを見守っていると・・・・。そういう雰囲気の世界なんですよ、ペンタゴナワールドというのは。
前回、ちらりといいましたけど、ブラッドテンプルというのがありまして、これはA、B、C、D・・・・とつづく、テンプルシリーズのA級へビーメタルで、Aがアシュラ、Bがブラッド、Cがオリビーの乗ってるへルミーナのカルバリーテンプルというふうにつづきます。
ヘビーメタルのルーツを探ると・・・・
――それはポセイダルの側近のヘビーメタルですか?
永野 ぼくの設定としては、Bテンプルが〃テンプル騎士団〃とよばれる側近中の側近、いわゆる近衛隊という感じで、いつも影のようにつき従っているんです。ポセイダルはオージェに乗ります。
いま、ネイが乗っているのは、それのレプリカ(複製)の一号機です。ポセイダル専用のオージェはテレビのほうでは出てこないですけど・・・・。テンプブルシリーズもD(ディステニー)、E、F、Gとつづくんだけど、出せるかどうかわかりませんし、バッシュの二番機、三番機と、出てこないへビーメタルの設定もずいぶんあるなあ(笑い)。
小沢 たしか、ガイラムというのが対Bテンプル用の武器をもっているっておっしやってましたね。
永野 ええ。ガイラムというのは、ヤーマン族が独自に開発したへビーメタルで、いわば、すべてのへビーメタルのルーツ(原点)です。それに対抗してポセイダルもへビーメタルをつくりはじめたわけで、いまのへビーメタルは、ヤーマン系とポセイダル系の二つの系統に大別できるんです。
小沢 すると、エルガイムやMkUはヤーマン系、オージェやテンプルシリーズはポセイダル系となるわけですね?
永野 MkUは、メッシュ=メーカーがアモンデュールを基本に、まったく新しい形のへビーメタルとして改造したもので、いままでの流れとは切り離して考えてください。それ以外のへビーメタルは、いまから五百年ほど前につくられた二つの系統のへビーメタルの設計思想にもとづいて、各地に埋もれていた古いへビーメタルのパーツやその代用品を使ってつくられた複製品ということになりますね。
ヘビーメタルか高価な理由、それは・・・・?
小沢 すると、純粋なへビーメタルというのは、いまはぜんぜん残っていない?
永野 いや、フル=フラットが隠しておいたガイラムとか、ポセイダルの王宮で保管されているBテンプルのように残っていますが、それらの部品や材料がいまは極端に不足しているので、そう手軽に出すわけにはいかないという事情があるんです。へビーメタルをつくる技術もいまは失われてしまっていて、あるものを使い回すしかないんです。材料なんか奪い合いになるし。
小沢 だから、腕なんかがとばされても、きちんと拾ってもっていくんだ。
永野 そのとおりです。エイプ(ポセイダル専用艦)なんてとてつもない船をつくったために、ものすごいお金と時間がかかり、それが民衆の生活を圧迫して、反乱までおきてしまったわけですから。
小沢 ペンタゴナワールドは、資源を食いつぶして、ジリ貧状態にあるということですね。
永野 ええ。そういう背景もあって、へビーメタルは非常に効率を考えてつくられているわけです。
予備の武器が多いのもそうだし。ほんとうはカービングしたエルガイムが見たいなあ。ステンシルマークなんかついてなくて、みんな彫刻になってるもの。それによって表面積をふやし、太陽光線をより多く吸収することができますから、エネルギー効率が高くなるんです。
小沢 ランダムスレートなんかも、ソーラージェネレーターとして機能する設定でしたよね。
永野 あれは最初、開くはずじゃなかったんですよ。富野さんが、開いたぼうがおもしろいっていってね。売るときのセールスポイントになるから。
それから、エルガイムの二本のかかと、これは着地用のブレーキとして考えたんですよ。最初はスリングパニアーみたいなものをつけて飛んでましたので。それが設定としてなくなりましたけど。
小沢 そういえば、最初、「エルガイム」を試写で見たときに、とんでもないなあって思ったのは、出てくるメカがみんな浮いてること。これには恐れを抱きましたよ。だって、ディオラマにするとき、たいへんだもの(笑い)。
永野 あれは作画の枚数を減らすため、しかたなく浮かせたんです。ワークスなんかはタイヤで走らせたかったんだけど、タイヤのパースやパターンが描けない。作画するアニメーターがたいへんだから。
――そういう裏話があったんですか(笑い)。
永野 エルガイムもいいけど、もっとミリタリーやモデルの話をしたいなあ(笑い)。エルガイムであんまり裏設定を作りたくないんです。自分で想像して作る楽しみがなくなってしまうでしょう?
自分のイマジネーションを大切にしてほしい
小沢 いまの子どもたちが作ったプラモを見ると、アニメの設定どおりにきちんと作ってくる。
永野 それはそれでいいし、実にじょうずなんですけどね。なにかおもしろみがないというか・・・・。
小沢 尺度がないんですよ。MS−Vにしてもそうで、ここの設定がわからないから作れない、色が塗れないっていうので、小田さんがあそこまでていねいに作って出していく。
永野 確かにライデンさんのザクはかっこいいけど、キットであれだけできていると、ぼくらには動かして遊ぶくらいしか楽しみがない。
小沢 ぼくらくらいの年代のクリエーターだと、ミリタリーを作った原体験があって、それをガンプラの作例などに遊びとして生かしているわけですけど、いまの子はそうやってかみくだかれたおもしろさだけを吸収してますからね。
永野 「ボンボン」の読者のみなさんにもいいたいけど、オージェは絶対に黄色じゃないんですよ(笑い)。アニメに出てくる色や形をそのまま作るんじゃなくて、もっと自分のこだわりをもってほしいって思いますね。ぼくみたいにタミヤのM1エイブラムスを黒とピンクに塗り分けて、ヤッターって喜んでる人間はいないと思うし、メルカバなんかスカイブルーに塗ってみようとかね。いまのAFVマニアって、そんなこと絶対にいわない。
でも、自分だけにしか作れないものってあるはずでしょ。ぼくの設定なんか無視してくれていいから、自分のイマジネーションをどんどん広げていってほしいですね。
――それが結論ということですね。どうも、長い時間ありがとうございました。
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