永野護×小澤勝三対談(-1)

講談社「月刊コミックボンボン84年11月号」より抜粋

2004/10/14 (2012/8/8訂正)
スペシャルインタビュー PART2

●キャラクター&メカニカルデザイナー
永野 護

★10月号から始まった長編インタビュー第2回。
今回は、''ヒゲのプラモ怪人''小沢勝三氏も加わってのプラモ談義だ!



ITCのメカとキャラが大好きなんですよね
(十月号からつづく。)

――例えば、キャラクターの発想みたいなものは、どのあたりから生まれてくるんですか?

永野 まあ、いろいろ場合によって違うんですけど、例えばロック関係のアーチストたちのファッション的なセンスみたいなものは、参考になりますね。着てる服やヘアスタイルなど。ぼくもギンギンにロックに凝ったことがあるんで、そのへんの趣味みたいなものは生かしてますよ。やっぱり、メカにしてもキャラにしても、自分の好きなもの、趣味みたいなものがすこしずつ入ってますね。例えば、髪を切ったあとのガウ=ハ=レッシイ。あの髪型とキュロット風のスカートのイメージは、「謎の円盤UFO」に出てきたエリス中尉、ムーンベース(月面基地)の戦闘隊長である彼女をもとにアレンジしたものです。

――特撮ものもお好きなんですね。

永野 ITC(「サンダーバード」などを作った、イギリスのプロダクション)、特に「UFO」と「スペース1999」さえあれぱ、あとはなにもいらない!――というくらいのITCマニアです(笑い)。なんたって、ITCに自分のデザインを送りつけたくらいですからね、もう、たいへんなマニアです(笑い)。


どのキャラクターも、みんな愛着がありますよ

――お気に入りのキャラというと、やはりレッシィですか?

永野 うーん、レッシィって人気あるんですよねえ・・・・。でも、ぼく自身は、そればど思い入れがあって作ったキャラではないんです。ほんとうはこんなこといっちゃいけないんだろうけど、レッシィば単純に「受け」をねらって作ったんですよ。ダバと風じで、主役キャラだから、こんなものだろうという・・・・(笑い)。でも、最近はやはり、愛着みたいなものはわいてきましたね。ただ、みなそれぞれに自分の作りだしたものでしょ。だから、特にどれが好きだということばいえないんですよね。

――ストーリーの展開に従って、服や髪型をかえていくというのは、アニメでは、なかなか難しいと思うんですが・・・・。

永野 ええ。でも、そうやってすこしずつでもかえて見せていかないと、いつも同じ服ばかりというのは、やはりおかしいですから・・・・。アニメキャラも気分で服をかえるくらいのことは、あってもいいと思うんですよ。

――ところで、キャラ表のサインが〃くりす〃となっていたり、〃M・NAGANO〃だったり、いろいろなんですが、理由があるんですか?

永野 もともとぼくは、自分の絵にはサインを入れなかったんです。つまり、ぼくの絵はぼくにしかかけないものなんだから、サインを入れる必要はない、見ればわかるじゃないかと(笑い)、すごい、生意気ないい方ですけどね。でも、サンラィズのほうから整理するうえで必要だということで、気分でいろいろと使っています。〃くりす〃というのは、大好きな「イエス」というグループのメンバー、クリス=スクワイアからとった、ぼくのニックネームです。


ドイツ軍の戦車ばっかり作ってたんですよね

――永野さんは、プラモデルにもずいぶんとおくわしいということで、このへんでモデラーの小沢勝三さんに加わってもらって、プラモ談議といきましようか。

小沢
 はじめまして、よろしくお願いします。

永野 こちらこそ。

小沢 いつごろから、模型を本格的に作り始めたんですか?

永野 ‘74年くらいですか・・・・。ちょうどミリタリーモデル全盛のころで。タミヤの戦車、飛行機もハセガワがどんどんだしてきたころで・・・・。だから、最初はミリタリーから入りました。ドイツ戦車ばっかり作ってましたね。 最初に買ったのは、レオパルドとかパンサー。三十五分の一の…。それからウォー力ーブルドッグが出て、プラ製のキャタピラにびっくりして・・・・。

小沢 プラキャタピラになったのは、パンサーが最初なんですよ。

永野 改訂版になってからですか。

小沢 そうです。そのあと、キングタイガーもプラキャタピラにしたんだけど、今度はディテールがあまくてファンのひんしゅくを買ったんですよ。

永野 おまけに初期先行型だったし。

――あの、すみません。いきなりマニアックなお話になってしまって、チンプンカンプンなんですが・・・・。

永野 あ、ごめんなさい。小沢さんみたいな方と、こういうお話ができる機会はめったにないもんで…(笑い)。

小沢 じゃあ、エルガイムのキットの話からにしましょうか。ちょうど、バルブドのテストショットがあるんです。


オージェのキットは百点をあげられます

永野 小沢さんが仮組みしたんですか?・・・・これはプロポーション、ドンピシャですよ、ディテールはたりないけど。オージェのときも驚いたんですよね。脚から上は設定とぜんぜん違うんだけど、あれだけ雰囲気をだしていれば、百点です! 設定なんか違ってたってかまわないって感じでしたからね。

小沢 そのへんは自由な発想なんですね。

永野 ただエルガイムに関しては、マイナス点がついてしまいますね、百四十四分の一も百分の一も。

小沢 くわしく見てますね。よく作られるんですか?

永野 いやあ、バンダイのほうから送ってもらっているんですが、時間がなくて、仮組みまででおしまい。

小沢 じつは、百分の一のエルガイムの組んだものも持ってきてるんです。いろいろ、コンセプトをお聞きしたいと思って・・・・。

永野 アッ、ほんとだ。アレッ、でも、こうやって見ると、これよくできてるなあ。写真で見るより、ずっといい。

小沢 宣伝写真の場合は、全体のイメージをつかまないうちに撮っちゃうことがあったりしますからね。それに、設計自体は初期のデザインから起こしてますでしょう。主人公メカは、番組制作に入る前に図面を引くことが多いから、その分、ハンデはありますよね。

永野 百四十四分の一は自分で作ってみて、コンセプトがあまり伝わってこないですね。決定的な違いは、肩は前後のスイング式ではなくて、ボールジョイントになってるんです。

オージェは黄色じゃなくて、金色なんですよ

小沢 このバルブドはボールジョイントになってますよ。そのへん、研究してますね。

永野 ほんとだ。でも、このバルブド、出来いいなあ・・・・八十点。頭が違うからマイナスニ十点です(笑い)。

小沢 はじめて自分のデザインしたものが立体化されたときの感じって、どうでした?

永野 うれしいですよ、それは。デザイナーの特権ですね。ただ、半分は自分で木型を作りたかったと思います。アニメで実際に動いてるのも同じですけど、やっぱり作った者としてね、最後まで自分で責任とりたいって思うんです。まあ、がまんしなさいっていわれてますけど・・・・。

小沢 最初の段階では、製作者の銘が彫ってあったりしましたよね。

永野 アシュラテンプルでやってみたんだけど、NGが出ちゃって。動かせないし、彩色に三倍くらい時間がかかっちゃうんですよね。 じつは、A級ヘビーメタルっていうのは、アニメだから、しかたなくあの色なんですよ。実際はメタリックなんです。オージェなんて、ギンギンギラギラだし・・・・。

小沢 金でしょ?

永野 そう、金なんですよ。金とカッパーと、しんちゅう色っぽくて・・・・。エルガイムはパールホワイトっていうか、半透明のプラキャストみたいな質感なんです。とても透明感のある白です。バッシュだったらメタリックグレー、グルーンだったらメタリックブルー、アシュラテンプルは赤銅色ですね、みがきこんである。

小沢 ということは、繊細なグロスで仕上げてシリコンクロスでみがきあげる、ヌメッとぬれたような質感ですか?

永野 そのとおりなんですよ。

小沢 オージェなんか、黄色でキラッと輝く演出をしてたから、これは金を意識してるんだなあってわかりましたけど・・・・。


ヘビーメタルの装甲は弾力があるんです

永野 セラミックみたいなものっていい方はしてるけど、その世界の考え方を、現実的なことばにおきかえているだけなんです。オージェなんか、素材の上から金箔をはりつけてるんですよ。その上からコーティングもしてるんです。表面積を広くするために、波状コーティングをしてるかもしれないわけですよ。効率的にも、よい影響が出るでしょうからね。

小沢 最初に設定を見たときに思ったのは、セラミックでホワイトでしよ、金属的な質感表現ができなくて、しかもサビ色が使えない・・・・。ほんとうに自然のウェザリングしか手はないなって感じで、悩みましたね。

永野 怪獣の歯の雰囲気ですね。なにか、蜜でぬれたような透明感・・・・。

小沢 番組の中では、装甲が割れたりするような表現は使ってないですね。

永野 しいていえば、シャーマン戦車の砲弾をめいっぱい受けたあとのタイガー戦車の被弾状況になるんじゃないかと・・・・。ベコッというか、もし割れるとしても、パリッとではなく、マシッというような、弾力のある感じなんですね。

小沢 ところで、ヘビーメタルって、予備の武器をたくさんもってますね。

永野 A級ヘビーメタルは、ほとんどがワンオフ(一機のみ)で、いってしまえば、陸軍の集団戦の歩兵と海兵隊の精鋭くらいの違いがあるんです。一人で放り出されても何週間も戦いつづけられる。A級はそれぐらい単体のポテンシャル(潜在能力)が高いんです。第42話に出てくるガイロンなんか、対ブラッドテンプル用バスターランチャーなんて個別兵器を待ってる。Bテンプル自体は出てきませんけどね。基本的には一対一の世界なんです。

(話が核心に近づいてきたところで、十二月号につづく。)




2012/8/8

 以下の誤記の訂正を行いました。謹んでお詫び申し上げます。

例え、キャラクターの発想みたいなもの → 例えば、キャラクターの発想みたいなものは
例えロック関係の → 例えばロック関係の
趣味みたいなもの生かして → 趣味みたいなものは生かして
やっり、メカにしても → やっぱり、メカにしても
例え、髪を切ったあとの → 例えば、髪を切ったあとの
「謎の円盤UFО」に出てき → 「謎の円盤UFO」に出てきた
彼女をもとに(改行)アレンジ → 彼女をもとにアレンジ
「スペース1999」さえあれ → 「スペース1999」さえあれば
どれが好きだということ → どれが好きだということは
〃M・NAGANО〃だったり → 〃M・NAGANO〃だったり
もともとぼく、自分の → もともとぼくは、自分の
あの、すみまん → あの、すみません
あ、エルガムのキットの話からにしましょうか。ちょうど、ルブド →
じゃあ、エルガイムのキットの話からにしましょうか。ちょうど、バルブド
これプロポーション → これはプロポーション
写真の場合は → 宣伝写真の場合は
ヘビーメタルの装甲は弾カかあるんです → ヘビーメタルの装甲は弾力があるんです
現実的なことに → 現実的なことばに
金属な質感表現が → 金属的な質感表現が


※故小澤氏の名前は「小澤勝三(おざわ かつぞう) 」が一般的ですが、
ボンボンの誌面では「小沢勝三(おざわ かつみ)」とされています。
※「ガイロン」は、「ガイラム」の初期名と思われます。



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