「動画王VOL.07」より


キネマ旬報社「動画王VOL.07」キャラクターデザイン特集(発行日・1998年12月25日)P175〜177より。


安彦良和ロングインタビュー(ごく一部分を抜粋)

―――その後企画はどのように進行したのですか?

安彦 六畳一間の小さな企画室で話している状況は覚えているんですけど、そのとき富野氏はあんまりしゃべんなくて、ふてくされたような寝たようなポーズしてたと思う。それで話をしてもまとまんないから「富ちゃんなんか考えてよ」ということになって、「じゃあ、一日か二日くれ」って言って彼は家に帰ってあの長ったらしいのを書いてきたんですよね。だからあれは、民主主義的に決めたんじゃなくて、富野氏が家でやってきたものだったんです。それをあの長さとわかり難さで煙に巻かれて(笑)、「なんだかわけわかんないけどおもしろそうじゃないの?」ということでそれをいただくことになったんです。

―――ということは全体的な「ガンダム」の企画は、企画室で生まれたのではなく、富野氏の自宅で生まれたと?

安彦 彼の仕事場で生まれた。だから彼がどの程度企画会議のガヤガヤを聞いていたかは知らないけど。

―――あがってきたのを見ると「言ってたことちゃんと入っているんだな」ということですか?

安彦 いや、できてきたものは全然違うものでしたね(笑)。彼の引き出しに何が入っていたかは知らないけど、その企画会議ではスペースコロニーがどうのとかジオンだとかいう話は出ませんでしたからね。それは彼が温めていたか、あるいはどっかで閃いたかわからないですけど。

―――安彦さんの立場からするとそれは突然出てきたと?

安彦 年代記的なものはおもしろいと誰かが会議で言っていたとは思うんですけど、富野氏のあがってきたものが、もろ年代記的なもので、みんなあっけにとられて。たたき台というんじゃなくて「どうだ!」と出てきたから「何もいえません。いただきます」ということになった(笑)。

―――安彦さんのキャラクターの企画は長くかかったんですか?

安彦 こういうロボットものってのは、人間のキャラっていうのは一番最後でいいんですね。メカキャラが大事なんで。

―――まずスポンサーを通さなきゃいけない?

安彦 ええ、そうです。当時クローバーですか? どっかのおもちゃメーカーが金出してくれそうだって言うんで、そこにお金を出させなくっちゃいけない。それで、パワードスーツではクローバーは金出してくれないから合体するコアファイターというものを創り出したんです。全然そんなもの作る必要はないんですけど(笑)。こうしないとおもちゃは売れないんですよ。

―――いろいろたくさん付いているのがかっこいいっていう時代だったから?

安彦 スポンサーの所業って、こうもなります、ああもなりますって言って「こんなにいい商品のバリエーションがありますよ」と売るんでしょうね。馬鹿みたいな話だけど結構大切なことなんですよね。

―――メカ関係は大河原さんがほとんどやられていたという事ですが?

安彦 記録全集にも出ていると思うけど、最初僕が描いたガンキャノンという赤いロボットになるのがもともとガンダムのベースなんですよね。「これでいこう」ということだったんだけど、大河原さんが入ってきてガンキャノンは主役になりえないっていうんで、新たにガンダムが創り出されて、僕のガンキャノンはそのままの形でサブメカになりましたけど。そこら辺の経緯はよく知らないんですよ。

―――順序でいうと安彦さんのガンキャノンがあってあとでガンダムが作られたと? 富野さんはそこら辺を考慮して作られたと?

安彦 大河原さんが描いたのがあって、富野氏が「それちょっと違うんだよね」と言ったんですよね。それから僕がガンキャノンの原型みたいのを描いたんだと思うんですけど。それを練ってみたんだけど、これじゃ主役にはならないということになって、また大河原さんが色々やり直して描いてきたんですけど、それには口があったんですね。僕は「何故口があるんでしょう?これは喋らないんでしょう?」っていちゃもんをつけたんですよ(笑)。それでマスクをつけたのが僕なんです。

―――コアフアイターのデザインにも関わったということですが?

安彦 あれは最初あまりにも描きにくい弁当箱みたいだったんで(笑)、許される範囲で僕が飛行機っぽくしたんです。ぬえの宮武君あたりがいろんなコンセプトやアイデアやデータ的な事も考えていたけど採用されずに大河原さんになったと、だからデザインがつまらないものになったというようなことを、さっきの体内回帰のアニメ評論家の人か誰かが書いてたんだけど、ぬえを使うか他を使うかというのは割とあっけらかんと決めた気がしますね。

―――というのは?

安彦 むしろそれまでぬえと関わりがありすぎたんで、たまには違うのにしようかということだと思うんです。なぜ富野氏がぬえではなく大河原さんにしたか、そのことについて話をしたことはないんで詳しいことは知らないんですけど、僕自身はぬえを使うことで揉めたとかという記憶はないですね。その当時ぬえはちょっとやりすぎだったんですよ。それとこう言っちゃ失礼になるんだけど、宮武デザインっていうのは出来不出来が激しくて、ダメなものは徹底的にダメなんですよ。だけど、彼は理届っぽい男だからダメだと言っても素直に言うこと聞かないんですよ。

―――それにおもちゃ向きではないですよね?

安彦 マニアックですからね。というか、ぬえは全員が理屈っぼいですからね(笑)。例えば松崎がつっぱったり、高千穂が出てきたりと話がややこしくなっちゃう(笑)。だから「ぬえはしんどいから、もっとさっぱりした人でいこう」それくらいの感じだったんじゃないんですかね。

―――直しもやってくれって言ったら素直に直してくれるような人がいいと?

安彦 「さっぱりっていえば大河原さんだ」と(笑)。あの人理屈は何も言いませんからね。富野氏がいろいろなラフデザインを描いて、メカデザインのある部分は富野氏がやったようなものですから、ぬえを使っていたらああはいかないですね。絶対文句言いますから(笑)。ただ、高千穂のアイディアがありましたからね。ぬえとしてはおもしろくないというのは、あるかもしれないですね。ただ、宮武のデザインワークも間題だと思いますけどね。描きにくいんですよ。線が多くて、曲線を多用するし。一枚絵なもんだから動くということを全然配慮していないんですよね。





オマケ

「動画王05号・メカデザイン特集」をお持ちの方は必ず御覧下さい


同、キネマ旬報社「動画王VOL.07」(発行日・1998年12月25日)P211より抜粋。



≪お詫びと訂正≫
前々号「メ力デザイン特集」で以下のような誤表記があったことを、関係者の皆様、
読者の皆様に深くお詫び申し上げます。

◎15ぺ一ジ:
  「もともと彼(出渕裕)は東映戦隊シリーズのデザイン等を手掛けていたのだがアニメ界にも進出し」は「もともとアニメのメカデザインを手掛けており、そこから実写特撮にも進出した」が正しい。

◎88、91ページ:
 佐山善則氏が「機動警察パトレイパー」劇場版第1作に参加したのは事実だが、「零式」のデザインはしておらず、これをデザインしたのは出渕裕氏。

◎90ページ:
 山根公利氏がタツノコ作品のリメイク版で「科学忍者隊やキャシャーンの服(?)等を大胆にシャープで硬質な服にリファイン」したのではなく、それを担当したのはキャラクターデザインの梅津泰臣氏。

◎96ページ:
 小林誠氏が「ガンダム・センチネルでの仕事で定評を得」とあるが、氏はセンチネルには参加していない。

◎116ページ:
 佐藤元氏が担当したのは「主役メ力であるゴーグをはじめとするメインメカ」ではなく、ゴーグは安彦良和氏のデザイン。ゼノンの兄が乗り込む機体やラブルガーディアン等も同じく安彦氏の手による。

 以上は出渕裕氏をはじめ関係者各位より具体的にご指摘をいただいた部分ですが、本文以外にも、掲載イラストに関してデザイナー自身の絵でないものが一部ありました。アニメ制作プロセス上、作画監督など他の作画スタッフが同じ絵をクリンアップすることがあるためです。また、「パトレイパー」等で、著作権表示が問違っていたことを深くお詫ぴ申し上げます。
 過去の作品の評論や紹介記事とはいえど、このような間違いを繰り返さないよう、本書「キャラクターデザイン特集」は、インタビュー証言を中心に構成してみました。


無法スキャン師の付記
 この訂正からは漏れていますが、動画王5号では他にもサンライズリアルロボ(富野作品)の主役メカのデザイナー名を間違えています・・・(ああっ頭痛が痛い)。
 それから、有名メカデザイナーの名前を誤って書いていたり、細かい事実誤認もいくつか散見されるのでくれぐれも御注意ください。

 しかしまあ、この本の凄まじさは実際に見ないと伝わりにくい事ではあるのですが、活字がいかに信用できないかという事を反面教師として教えてくれます。なお無論の事ですが、今見ているこのサイトの内容も決して信用などしてはいけません。


2004/10/22



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