伝説のガンダム同人誌無断転載(部分)

ガンサイト1号(-1)

Legend Gundam Fanzine "Gunsight Phase,1"

2003/6/9 (2012/8/8修正)

発行 G・F・C
   第一版 1979/07/29
増補改訂版 1979/08/07

表紙 : HAL(美樹本晴彦)
※本にノンブル表示はありませんが、以下は「34〜39ページ(34はタイトルのみ、36は図面)」に該当します。(2012/8/8追記)

SPACE COLONY
Y・T・MINOVSKY
訳 星 良益

序節 真空と無重力の世界

 宇宙の暗黒と静寂が突如、巨大な眼玉によって破り去られた。輝やくコロニーの反射光に不気味なシルエットが映る。ごつい巨体に似合わず、三機のザクは熟練した兵士の動きを見せ、サイドに降り立つ。とたんに星が背を回り始めた。エア・ロックが開かれる。侵入するザクの背後ではただ太陽のみが動がない。―――ガアァン! ザクの肩が鉄材に触れて鈍い音を発したのだ。と、鉄材は落ちもせず、そのまま壁にはね返ると、すうっと後方の宇宙空間へと消えていった・・・・・
 このわずか数分間の中に、今だがつて類を見ない程の真空と無重力の描写がある。人類の、まだほんの一握りの人間しが体験してない異世界―――宇宙空間が面面一杯に見事な広がりを見せていたこの驚異的な表現の蔭にはさらに、無数の末来への可能性が散りばめられているのを見逃がすことはできない。あり得べき未来の姿――― そのひとつは宇宙植民島計画と呼ばれている……………。


第一節 宇宙植民島計画

人は宇宙へ
 宇宙植民島は米国のG・K・オニール博士が1969年に提唱した宇宙開発プロジェクトで、NASAでも今世紀末実現を目指した本格的研究が進められている。この計画は、アポロ・ボェジャー等のこれまでの宇宙計画と大きく性格を異にしている。学術的探求ではなく、初めて、宇宙の実際の活用に主眼を置いた計画と言えるだろう。現在の状況では人類の地上の発展には限界があり、この限界を破る一つの手段として、必要に迫られて生まれたのがこのプロジェクトなのだ。
 地球が有限の大きさを持つ以上、その上での人類の無限の発展は望めない。実際、今世紀末には人口は百億に近づくと予想されるが、それは同時に大規模なエネルギー/食糧危機の到来を意味する。“夢のエネルギー”と言われる核融合技術が確立・実用化されたとしても問題は解決されない。というのも、エネルギーの一部は廃熱として必ず大気中に逃げ、この熱が気象変動を起こす程膨大なものになり得る。エネルギー消費は人口増加とともに増えるし、現在の消費率増加が続けば八十五年以内に氷河期にも匹敵する大異変が引き起こされる、という予測すらある。
 有限の資源、有限のスペースと熱の限界、地球はこれ以上人類を育んではくれない。人類が次の発展を求めるならば、新たな世界を関かねばならない。
これは必然である。
 人類の目指す新世界は月でも火星でもない。他の惑星への植民は環境的障害が大きすぎるし、例えそれを克服しても、待っているものは地球の二の舞――人口過剰とエネルギー危機なのだ。人類は無限の宇宙空間にこそ活路を見い出せる。もちろん真空で無重力の空間に直接住むわけにはいかない。ここに宇宙植民島のプランが登場する。


字宙島建設
 宇宙島の建設はすべて現在の科学技術の範囲内で可能である。まず第一に月面に前進基地が置かれるが、これは必要物資の大部分を月面からの採掘に頼るためである。この物資は、リニアモーター応用の、長さ10kmの電磁カタパルト<マスドライバー>によって打ち出されることになる。月面は真空で、かつ脱出速度が極めて小さいので、ロケットを打ち上げるより、このマスドライバーの方が遥かに効率が高いのだ。打ち上げられた物資は、一端月上空のL2点(⇒補足1)に置かれたマスキャッチャーに集められ、そこから宇宙船等で、宇宙島建設現場ヘ送られていく。
 初期の宇宙島は月と同一軌道のL5点(⇒補足1)に作られるだろう。このL5は軌道安定性が高く、多量の字宙島を浮かべる事ができる。L5の建設現場には宇宙ステーションや太陽発電所が設置され、約2,000人がここで働らくことになる。


スタンフォード・トーラス
 最初の宇宙島は、効率を考慮して、オニール博士が初期に提唱したものとは異なるタィプが使われるだろう。それはスタンフォード大学で研究されているドーナツ型のもので、<スタンフォード・トーラス>と呼ばれている。このタィプは直径約2kmで、内径1000m、長さ6.4kmの外周チューブが居住区となる。リングは一分に一回自転し、遠心力による1Gの人工重力を発生させる。
 その総工費はアポロ計画の2〜5倍かかると予測され、1990年〜2005年の間に完成する事が目標である。
 L5はバン・アレン帯の外にあるため、宇宙島には重一次線等の強い宇宙線や太陽フレアに対する防御が必要である。が、スタンフォード・トーラスはあまり大きくないので、遮蔽物だけでこれを防ごうとすると、重量の大部分をさかねばならない。これに対しては、居住区沿いに超伝導コイルを設け、磁場による人工のバン・アレン帯を造り宇宙線強度を減少させるという方法が研究されている。


宇宙島の活動
 宇宙島の第一号には宇宙工場で働く約一万人が居住する。宇宙では工ネルギーは安価で無限に近い。ただ太陽光線を鏡で集光するだけで数千度の高温も自在に得られる。さらには、高度な真空・無重力といった地球では不可能な状況を簡単に作れる。従って高純度の化学物質や高精度の製品の製精、或は歪のない単結晶や均一合金・発抱合金、等々地球より何倍も何十倍も強く、純粋な物が造り出せる。このような好条件下にある字宙工場の生産能力は地球の工場の比ではない。
 宇宙工場ではまず太陽発電衛星が作られる。この衛星は静止軌道に乗せられ、発電した安価な電力をマイクロウェーブに換え、地表に送る。この電力で地球上の需要が賄なえるから、宇宙島建設に投下した資本の回収ができる。とともにエネルギー危機が永久に解消されるのだ。さらには、大気圏への影響を考えて、レーザーによる電力送電も研究されている。


小惑星開発
 小惑星には、炭素、窒素等月に存在しない物質が含まれている。これらは生物には欠くことができない重要なもので、初期には地球から供給される。だがL5からは、地球へ行くにも、小惑星帯に行くにもその速度距離はほとんど変わらない。さらには、小惑星からの物資輸送には大きな加速度は不要であるし、大気圏を通らないので船の構造も簡単にできる。これらの事実を見れば、小惑星開発の有利さは一目瞭然である。小惑星は引力が小さいので採掘も容易である。その物資ははとんど無限に近い。
 もちろん小惑星帯が開発されるのは、L5に相当の設備がつくられた後になる。だがこの巨大な物資の豊倉の開発が成功すれば、10年もしないうちに宇宙に居住する人口は一億を超え、工業力も経済力も地球を遥かに凌ぐものとなるだろう。さらに10年がたてば、宇宙島はその人口においても地球を超えるかもしれない。


島3号
 開発が進み、多くの人々が宇宙へ移住する頃には、島3号と呼ばれるタイプの宇宙島が一般的に用いられることだろう。オニール博士のプランでは、島3号は二本の円筒 ――それぞれ直径6.5km、長さ32km―― から成り、客々に五百万人づつ、計一千万人が居住できる。(⇒補足2) 一千万人と言うと随分多いようだが、島3号の大きさがあれば、一人あたりの居住面積・公園面積はともに今の東京都の3〜8倍は確保できる。
 内壁は六等分され、三つの陸地と三つの窓が交互に配置される。窓の外には巨大な平面鏡が置かれ、自転軸上にある太陽の光を窓より取り入れる。これによって島の内部は自然の陽光で満たされ、夜明けや日没、四季の変化等も鏡の角度の調節により自由にできる。
 宇宙島では環境のすべてを人間の手により創り出すので、かなり自由に環境を調節できる。工場・農場は独立して造られるので、円筒内の広大な空間は居住区のみに割り当てられる。島の地下、つまり円筒の外壁の中や外部の真空地帯にはあらかじめ大規模な地下街や道路交通網、送電線などが造られている。これによって、地表は完全な居住地帯となり、公害のない緑の空間を作り出せる。
 島3号ほどの大きさを持つと、川や湖を人工的に造ることもできる。又円筒の両端は半球形に形造られ、その内側に3,000m級の山が置かれる。この山の山頂付近は自転軸に近く人工重力がほとんど働らかない。この低重力を利用した様々なレクリエーション・スポーツ等も考えられることだろう。山は登れば登る程体が軽くなる。山頂では人力飛行や水上歩行なんてことも可能である。
 円筒内部の空間は「空」と呼べるだけの広さがあり、雲や雨も自然に発生するものと考えられている。初期の宇宙島では1/5気圧の純粋酸素が大気として使われている。が、この時代には技術が進歩し、地球と同じ成分の大気が用いられているだろう。


宇宙島の安全性
 島3号は充分な大きさを持つので、宇宙線や太陽フレア等は、外壁や内部の空気だけで防ぐことができる。が、地球と違って大気圏を持たない宇宙島は隕石の直撃を受けることになる。宇宙島は天体としては極めて小さい。そのため隕石の多くは月や地球の巨大引力に引き寄せられ、宇宙島に当たる確率は極めて小さい。島3号では、質量1t程度の隕石は百万年に一回ぶつかるかどうかといった程度でしかない。ただ100g程度の宇宙塵には注意が必要で、3年に一回位の確率で宇宙島に衝突すると考えられる。宇宙島は窓が最っとも弱い部分である。従って窓は、宇宙塵の対策として、一辺50cm位の無数のガラス板を金属フレームに組込んで作られる。これにより、強度的な向上とともに、隕石衝突の際も破滅的な災害は防げる。何故なら、その窓の一枚が破られたとしても、島の大気が抜けるには数年かかるので、修理には充分な時間が確保できるからである。


社会体制
 宇宙島では気候状況は人為的に自由にできる。常夏のハワイだろうが、カナダの大森林帯だろうが、思いのままに再現できるが、島内で人工的な生体系のサイクル・システムを実現するのは、今のところ非常に困難である。これは実際の経験を積みその中で解決されていくべき問題であろう。さらに研究が進めば、<海>の宇宙島や<冬>の宇宙島、といった特殊な環境の固定化も可能かもしれない。
 宇宙開発もこの時期に達すれば、500km内外の宇宙空問に25個以上の宇宙島が散在し、個性豊かな社会生活を営なんでいる事だろう。島同士の行き来は簡単であり、時間もかからないので、思想や生活様式の似た幾つかのコロニーが共同し、一種の国家を形成することも考えられる。移住する人々は、各自の好みに合わせて自由に世界を選択できるのだから、種々の異なった国家が形造られていくことだろう。宇宙島では土地や資源の欠乏はまずあり得ない。が、人間が本質的に変化しない限り、そこには常に戦争の危険が含まれている。各国の様々な主義・主張・或は生活様式の相違から戦争が起こる可能性は充分にある。そして、機動戦士ガンダムは、そんな時代の物語と言える。


補1.ラグランジュ・ポイント
 ラグランジュの点と呼ばれるのは、地球と月の系では、両者に対する相対軌道が変化しないという特殊な性質を持つ点で、この系内には5つある。これら5つはL1〜L5と名付けられ、月と地球の共通重心を中心として回転している。この中でL1,L2,L3は地球と月とを結ぶ一直線上に位置しているため、軌道安定性が悪い。ここに宇宙島を造るとすれば、時々軌道を修正する必要がある。
 これに対し、L4,L5はそれぞれ地球と月を頂点とする正三角形のもう一つの頂点に位置し、非常に安定性が高い。とは言え、実際には太陽質量の影響で、L4,L5は点」ではなく、この頂点を中心として約89日の周期で公転する「軌道」ということになる。この軌道は約80万kmの長さになる。
 L4とL5を比べると、地球に対する公転方向と、L4,L5の周期回転の方向との関係で、L5の方がより低いエネルギー消費で月からの物資を得ることができる。そこでL5が最初の植民島建設の候補地となる。
 さらに最近では、L5よりも低い工ネルギー消費で月からの物資を得られる<2対1共鳴軌道>も研究されている。これは地球の周囲を、長径20万km、短径10万kmの楕円を描いて回る軌道で、ラグランジュの点とは異なり月と地球に対しての位置関係が複雑に変化する。しかし開発の極初期には、資材もエネルギーも大量には使えないので、L5より先にこの軌道に宇宙島が作られる可能性もある。


補2.二対一組の宇宙島
 島3号は鏡により太陽光線を取り入れる。このため、自転軸は常に大陽を向いている必要がある。ところが宇宙島は2分に一回の高速で自転しているのでジャイロ効果が発生し、その自転軸を一定方向に保とうとする力が働く。宇宙島は地球とともに公転しているので、自転軸は一年に360度変化させてやる必要がある。このエネルギーを計算すると、一本あたり300tもの力が必要となる。マスドライバーやロケット等を用いてこれを行なうのは噴射物質をかなり浪費する。最っとも効率のいい解決法として、二本の円筒を平行に並ベ、その作用、反作用の働きで、自転軸に歳差運動を生じさせるという方法が考えられた。このために島3号は常に2本で一対になっている。
 スタンフォード・トーラスのようなタイプの宇宙島では、自転軸が公転軌道面に対して垂直になっているので、このような操作は不要である。島3号においても、二枚の鏡を組み合わせて使えば、同様の効果が得られる。


宇宙島の末来
 宇宙島は太陽系内ならどこででも自活でさる。冥王星軌道の10倍も太陽から離れていても、直径千kmの反射鏡を用いればよい。そこまではマスドライバーによる推進機構で、数十年の歳月をかけ、島ごと移動していく。太陽系には、小惑星以外にも外惑星の衛星等、まだまだ資源がある。宇宙空問に数十兆もの人口が生活することもできるのだ。遠い未来には、太陽系中に人間が住みつき、地球は単に人類発詳の地として、記念的な意味をもつだけとなるかもしれない。


参考図書
 宇宙植民島/G.K.オニール著/プレジデント社
 Colonies in Space/T.A.ヘッペンハイマー/洋書
 Space Settlements/A design Study/アメリカ航空宇宙局監修
 MaKing of Side 7/T.Lei/CN出版




2011/12/24

 2003年6月9日のアップですが、現在の視点で見れば「docファイル形式でzip」が適切な気もします。
 表紙は美樹本氏(三号のザンジバルは河森氏でしょう)。ページ番号は存在しません。


2012/8/8

 誤記の御指摘を受けてチェックを行った所、指摘された10箇所を含む以下の36箇所が判明しました。OCRの過信及び校正に手をかけなかった事によるミスであり、誠に申し訳ございませんでした。G・F・C様及び読者の皆様に謹んでお詫び申し上げます。

増補改訂版 1979/08/0 ← 増補改訂版 1979/08/07
エア・ロックが開れる → エア・ロックが開かれる
のまま壁にはね返ると → そのまま壁にはね返ると
このわず数分間の中に → このわずか数分間の中に
地球が有限の →  地球が有限の(※空白追加)
発展はめない → 発展は望めない
エネルギー消は → エネルギー消費は
大異変引き起こされる → 大異変引き起こされる
宙島建設 → 宇宙島建設
宙島の建設はすべて → 宇宙島の建設はすべて
月面に前基地が → 月面に前進基地が
このマスドライーの方が → このマスドライバーの方が
<スタンフォード・トーラス>と呼れている。 → <スタンフォード・トーラス>と呼ばれている。
L5はバン・アレンの外にある → L5はバン・アレン帯の外にある
蔽物だけでこれを → 遮蔽物だけでこれを
線強度を減少させる → 宇宙線強度を減少させる
合金 → 発泡合金
発電した安価な力を → 発電した安価な電力を
需要賄なえる → 需要が賄なえる
地球から供される → 地球から供給される
星帯に行くにも → 小惑星帯に行くにも
さらに10年がたて → さらに10年がたてば
島3号の大きさがあれ → 島3号の大きさがあれば
川やを人工的に → 川や湖を人工的に
登れば登る程体軽くなる → 登れば登る程体が軽くなる
地球とって大気圏を → 地球と違って大気圏を
宙島は天体としては → 宇宙島は天体としては
しかし発の極初期には → しかし開発の極初期には
地球とって → 地球と違って
つかるかどうかといった程度でしか(改行)ない。 → ぶつかるかどうかといった程度でしかない。
宙島は窓が最っとも → 宇宙島は窓が最っとも(※ママ)
L4,L5は点」ではなく → L4,L5は点」ではなく
マスドライーやロケット等を用いて → マスドライバーやロケット等を用いて
自活でる → 自活できる
MaKlng of Side 7→ MaKing of Side 7(※Kはママ)



last update ; 2012,Aug,08


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