ククルスの島


妄想電波版『ククルス・ドアンの島』


2011/7/2
●Island of Cucruz


 浅い海底。海の砂が大きく不自然な形に盛り上がっており、そこを住処とする魚達が泳ぐ。

__機動兵士ガンダーOP『Wake UP! Gunder』__

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 第15話「ククルスの島」
 南洋の小島の夜。丸太を組んだ集落が立ち並ぶ(電気による灯りは存在しない)。祭壇を囲む大勢の村人達。体を緑色に塗って葉っぱやツルを巻きつけた二人の男が踊り、老人が祈祷を捧げる。祭壇の上には、突き立てられた銃とヘルメット、そしてウミガメの甲よりも大きなレンズが月光と篝火でキラキラと輝く。

 「ウォォー、ザクゥー!ザクゥー!」 「悪い大人も悪い子も、みんなザクゥーが食っちまうぞぉー!」 緑色の男達が奇声を放つ(顔の中央に丸く塗られた赤い染料が毒々しい)。彼らは取っ組み合いを始め、待ってましたと周囲の歓声があがる。その一方で、退屈そうな子供達。
 「やれやれ、じっちゃん達も良くやるよ…こんなのの何が楽しいんだろ」
 「しかしさあ、ずっと大昔に、空の上からたくさんの緑の巨人が降りてきたって、ホントかなあ」
 「巨人じゃなくて、ザクゥーは機械でできたロボットだよ」
 「それは知ってるけど、クジラくらいに大きなロボットなんて信じられないよ」
 「いや、ウソなんかじゃないさ。内緒だけど兄貴がこの前、掟を破ってこっそり見たんだって…ムチャクチャにデカかったらしいぜ」
 「ホ、ホント!?」

 翌朝、島の裏側の海岸の岩場を歩く二人の子供。
 「ひぇっ、あっぶねー…やっぱり戻った方が…」
 「絶対あるはずだって、多分もうちょっとさ…あっ!」
 「す、すっげー!」
 岸壁に力なくもたれる、朽ちたザク。足元は海に沈んで波が寄せ返し、肩や頭の上には海鳥達が羽を休めている。
 「フジツボが貼り付いてるから、案外簡単に登れるぞ」
 難なく肩まで上がる二人。
 「しかしでっかい顔だなあ…ン、文字みたいのが書いて…あぁっ!」
 うっかり足を滑らせて胸の装甲にドスンと降りると、ハッチがガコンと開く。一人が隙間かおそるおそる中に入ると、ハッチはバタンと閉じてしまい、どうしても開ける事ができない。
 「大人の力じゃないとムリか…。待ってろ、すぐに助けを呼んでくるからな!」
 残された少年は、ザクの胴体から降りて村ヘと走る。
 「チクショウ、やっぱりバチが当たったのかなあ・・・えッ!?」
 暗闇の中に突然、メーター類か輝いてモニターが映像を映し出す。
 「これ、ひょっとしてあのテレビって奴なのか!?」

 ロールアウトするザク。作動テスト、演習、整備員達…。そして地球への降下作戦、敵戦車との激しい戦闘と、モニターはモノアイが見てきた物を走馬灯の様に映し出し、パイロットのドアン・クルツの声が逐一それを解説する。やがて映像は、炎の中を人々が逃げ惑う地獄絵図へと変わる。「いくらゲリラ掃討とはいえ、こんな…人が、人が虫ケラの様に…」 ザクは銃を地面に投げつける。「ン? どういうつもりだ、任務を続けろ…何ッ!」 突如、ドアンのザクは上官のザクを殴りつけ、倒れた所ににのしかかる(モビルスーツの不意の転倒により受けるダメージは、人体とは比較にならない)。「よ、止せ、血迷ったか…」 タコ殴りされ、やがて動かなくなる上官のザク。正気を失ったドアンは独り言をつぶやきながら、味方の通信基地等の施設を次々に破壊する。

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 島をさまよい歩くザク。巨大な両手で焼け焦げた瓦礫をかきわけるも死体しか見つからないが、熱センサーが隠れている少女と子供の体温をキャッチする。倉庫の様な場所で、ドアンがザクを整備し続ける姿をモノアイが見降ろす。次第に打ちとけて、ドアンに協力する少女と子供達。しかしその平穏もつかの間、討伐のための二機の追っ手が来襲する。ドアンは敵の一体を落とし穴に追い込み作動不能にするが、もう一体との戦いで弾丸は尽き盾も失い、海岸に追いつめられる。そして目前で敵の銃口が光った所で映像はプツンと途切れ、コックピットの中は再び闇に包まれた。

 眠りこんだ少年が波の音と鳥の鳴き声に目を覚ますと、ハッチがわずかに開いて隙間から光が漏れていた。ハッチを何とか押し上げて這い出ると、すぐにバタンと閉じてしまい、再び開けようとするが開かない。少年はザクの頭の上によじ登って大海原を見渡すと、二艘の手漕ぎボートが近づいてきたので「オーイ!」と手を振る。

 「本当だってば!」
 「夢でも見たんだろう。巨人の…ザクゥーの胸板が開いたなんて聞いた事もないし、電源だって生きてるはずがない」
 取り合わない父親。
 「ドアンのザクは、島を守るために戦ったんだ…。そういえば前に他の島から来た人が、緑の一つ目巨人は地球を汚した悪い巨人だから、正義の白い巨人に退治されたって言ってたけど、本当なの?」
 「そうだな…巨人は人間の操るロボットなんだから、機械にいいもわるいもないんじゃないかな。父さんが若い頃に大陸で聞いた話だと、大昔に地球人が宇宙の人に辛くあたりすぎたので、追い込まれた宇宙の人が仕方なく巨人を作って戦争をしかけたんだそうだ」
 「戦争って?」
 「ン…そうだな…ものすごく大掛かりなケンカって所かな」
 「じゃあやっぱり、長老が言う様なバチも祟りもないんだね?」
 「ああ。だけど掟を破った罰のオシオキはちゃんとするからな」
 「えぇっ、そんな…。あの声が…ドアン・クルツが言ってたよ、どこの誰にも、子供達を苦しめたり未来を奪ったりする権利はないって」
 ボートを漕ぐ父の手が一瞬止まる。
 「…そうか……そうだな、ハハハ…」
 どこか不自然に笑う父。
 「?…… (しかしドアンは、結局どうなったんだろ…あの敵は倒せたんだろうか…?)」
 「ここが…この島が、ククルスの島と呼ばれる訳を知ってるか?」
 「知らない、教えて!」

 彼らのボートの真下には、海底の砂が十字の形に大きく盛り上がっていた。そこで静かに眠り続ける物が何なのか、今はもう誰も知らない。

__ED『砂の十字架(二番)』__

 敵のマシンガンはザクの左脇腹をかすめ、パイプからオイルが飛び散る。ザクは降り注ぐ銃弾の雨をものともせず真っ直ぐに進み、右拳で渾身の一撃を放つ。ふっとばされた敵は巨大な水しぶきを上げて、浅瀬に身を沈めた。しかし勝利したザクの足取りは重く、崖にヨロヨロともたれ、力尽きた様に赤いモノアイの光が消える。
 ザクの下で日々の猟をする子供達と、お腹を抱えた少女。崖の上には、ライフル銃と棒で作った十字架、ヘルメット、そして白い花輪。
 海の底。砂が大きな半球状に盛り上がった下の窪みには、うっすらと壊れたカメラの様な装置が見え、鮮やかな赤い魚が窪みを右に左と舞う。
 END

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__次回予告__


○海岸で朽ちたザクの元イメージは『ハウ・トゥ・ビルド・ガンダム2』のヤマタク氏のジオラマです。
○妄想版の目的は、ストーリーからアムロを抜く事です。しかし番外編とはいえ一話だけジオン兵を主人公とするのも問題のため、舞台をずっと未来にして別の主人公を立てました。
○ザクの体躯は痩せており(地上用の軽量型)、コックピットのハッチはポケ戦の06FZ方式で開きます。
○初稿は15年ほど前ですがイマサラ参照するのも面倒なので書き直し、頭によじ登ってから以降は現在考えた物です。エヴァ第弐話風の特殊な構成も、近年多い「Cパート」を導入すれば自然に繋がりますが、文章や漫画には向かない罠。
○脳内映像を上手く言語化できず、イメージを羅列しているだけで文章として読まれた物ではありませんが、いつもの事なので御容赦下さい。





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